見出し画像

2022年総括。心を落ち着けるダウンテンポ/アンビエント・ミュージック(感想)

凍えるような冬にこそ、身体を温めて心を落ち着けられるチルアウトを。
以下、この1年以内にリリースされた、ダウンテンポ/アンビエント・ミュージックを中心に印象的だった作品の感想などを。


Back to the Woodlands/Ernest Hood

音楽系記事を扱う米サイトPitchforkが2016年に発表した「ベスト・アンビエント・アルバム TOP50」の48位にランクインさせたのは、Ernest Hoodが1975年に唯一リリースしたアルバム『Neighborhoods』だった。
Ernest Hoodはポートランドでジャズ・ミュージシャンとして音楽活動を開始したが、病に倒れたことをきっかけにフィールドレコーディング素材とシンセなどをコラージュする音楽をつくりはじめたとのこと。

本作のリリースは2022年11月となるが、その『Neighborhoods』と同時期(1972~1982年に西オレゴンにて)に制作されていたとされる未発表アルバムで、レーベルはFreedom To Spendから。

いわゆる蔵出し音源というやつで、そういうのは大抵出来損ないの寄せ集めだったりして期待外れだったりすることが多いのだが、本作はかなりクオリティが高い。
「Noonday Yellows」では虫や鳥の鳴き声が、さらに「Rain」では雨の音がであったりと周囲に溢れている音を混ぜながら、生楽器の演奏と合わせた優しい音のコラージュは、とても温かい気持ちにしてくれる傑作。


7/Papir

コペンハーゲンを拠点に活動するPapirによる4曲入りの本作は2022年1月リリースで、レーベルはハンブルグにあるStickman Recordsから。

1曲目「7.1 (part I-III)」がいきなり20分弱もの尺がある。リズムを刻むサウンドは控えめで、深いリバーブのきいたプリミティブなギターサウンドがサイケっぽいフレーズで、穏やかな起伏によって盛り上がっていく展開がクセになる。
こういうのをずっと聴いていると、なぜだか平和な気持ちになってくるから不思議。
「7.2」とか、エキゾチックなギターサウンドと簡素なビートがどことなくKhruangbinぽいから、好きな人はハマるかも。

このユニットの曲タイトルは7.1~7.4という数字の羅列となり、先入観を可能な限り排除しているのも特徴的。過去作のタイトルも『II』『Vi』など数字が割り振られているだけでとにかく情報が少ない。


NuNorthern Soul 10

ロンドンでの設立後にイビサへ移設されたNuNorthernSoulレーベルから2022年8月にリリースされた本作は、レーベル10周年記念作として入手困難または未発表曲が収録されている。
テンポ遅めの曲が多数収録されており、ソウルテイストも含んだセンスの良い楽曲は没入感があって、いわゆるバレアリックな雰囲気を味わえる。

1曲目、Ragz Nordset「You Started It All (Ron Basejam Rework)」から、ゆったりとしたキックの4つ打ち、ストリングスの美しい響きそして憂いのある男性ヴォーカルの調和が素晴らしくて引き込まれる。

シンセのアルペジオにギターサウンドが絡んで心地よいMy Friend Dario「Fenice (Willie Graff Beatless Remix)」もお気に入りで、ラストはまったりとしたシンセのパッドサウンドTambores En Benirras「Camino a Cala Llonga (Original Mix)」が眠気を誘う。

本作のレコード盤での値段を確認すると、なんと10曲入りで1万円以上と高額になっている。その主な理由はレコード5枚組で片面に1曲づつという音質のこだわりからという、珍しい仕様になっているからとのこと。


Consumed In Key/Plastikman & Chilly Gonzales

イギリス出身でテクノの文脈で語られることのあるRichie Hawtinの別名義プロジェクトPlastikman

そのPlastikman名義では1998年に『Consumed』なるアルバムをリリースしているのだが、カナダ出身のピアニストChilly Gonzalesがこの作品に合わせてピアノの曲を作曲。
しかもこの二人を繋いだのが本作のExecutive ProducerとなるTigaという、やたら込み入った事情の作品だが、音はいたってミニマル。

サンプリングされた音や合成音などに、素朴なピアノの音が絡むサウンドスケープはアンビエント・ミュージックのようで、ひたすら暗く悲しげな旋律が響く。

音楽としてはとてもシンプルで、それによって生じる音の隙間が心地よく、ミニマルなビートを含めて各音色のセンスは抜群に良い。ピアノも出過ぎずに控えめな印象のせいか全体のバランスが良く、そのせいか聴いていて飽きない。
リリースは2022年4月で、レーベルはTurbo Recordingsから。



Radiant Crush/Cub cub

リーズを拠点に活動するJosh Hughesなる人物によるプロジェクト(Club cub)による2ndアルバムのリリースは2022年9月で、レーベルはSubexoticから。
検索してもほとんどヒットしないから、どういう背景のある作品なのか詳細は不明。

ジャンルとしてはエレクトロニカで、リズムサウンドも控えめ。静かすぎずに心地よいから作業用のBGMに丁度良い感じ。「Feel Flows」のようにこみ上げてくるような曲や、「Sun Dome」のように異世界へ誘ってくれるような曲などがお気に入り。



Haze/Hior Chronik

ギリシャ出身でベルリンへ移住したプロデューサー/作曲家Hior Chronikによるリリースは2022年4月で、リリースはKi Recordsから。

移住先の森の美しさに影響をうけながら制作されたというだけあって音色がどれも優しく、自然の持つスピリチュアルな気分や充足感を得られるエレクトロニカとなっている。
パッドシンセのような、優しく包み込むように歌う女性ヴォーカルやLo-fiなリズムなど、音色の選び方が柔らかいから聴いていると眠くなるような音楽でもある。
そして、カバー写真の女性の顔がどんなか気になる。



DE_ST_REC_CAT004.020.43

DE_ST_RECというレーベルから2022年9月にリリースされたコンピレーション。
情報が検索してもヒットしなからほぼ何も分からない。暗めなダウンテンポ、ヒップ・ホップ、ドラムンベース、エレクトロニカなどジャンルは様々だけど、基本的にはゆったりとした楽曲が多い。

良くも悪くも引っ掛かりがない曲が多く、かといって音楽としての質は決して低くは無いからBGMにしておくと心地よくて、作業BGMにすると捗る音楽だと思う。
尺が11分以上もあるエレクトロニカなLeiris「Unconditional Present」とか好き。



Open Space Volume 2

ドイツのレーベルFiGUREから、様々なアーティストによるコンピのリリースは2022年1月。ちなみにVolume 1 は2019年にリリースされており、こちらも内容が充実していて良かった。

空間の拡がりを感じさせるエレクトリックなダウンテンポが収録されており、夜が終わりかけの明け方とかに疲れた身体を横たえて聴きたい1枚。
シンプルなテクノだけど、グルーヴ感とスピリチュアルなサウンドが混在したJohn Beltran「Elevate It」が特にお気に入り。
Anna Rupprechtという人のイラストに太い白文字をのせたカバーデザインもカッコいい!


There's Nothing But Pleasure/Bubble Tea and Cigarettes

Bubble Tea and CigarettesはNYを拠点に活動する男女デュオで、レーベルはElefant Recordsから。
これまでリリースされたシングル5曲に3曲を加えた本作のリリースは2022年8月。アンビエント・ミュージックかと問われたら違うけど確実にチルできる1枚。

深いリバーブのきいたギターサウンドに儚げな女性ヴォーカルをのせたサウンドが特徴的で、まったりとした雰囲気のドリーミーな楽曲に仕上がっている。少し感傷的な印象もあるけど、そういう青臭さもひっくるめて趣があると思えば楽しめる。
「Leap」という曲にはMVもあって、見ているこちらが恥ずかしくなるほどの男女の恋愛とその別れがMVにおさめられていた。


Memories/Panic Girl

ジャンルはエレクトロニカまたはアンビエントとなる本作のリリースは2022年6月で、レーベルはミュンヘンを拠点にするi u we recordsから。

モジュラーシンセのARP 2600Moogなど、かなりい音の自由度が高いハードウェアと、フィールドレコーディングまたはヴォイススケープなどを組み合わせた楽曲づくりをしているらしく、本作では優しい印象のエレクトロニカを聴かせてくれる。

シンセサイザーの音色に浮遊感のあるようなアタックの柔らかい音色が多いのが特徴的で、音の組み合わせが幻想的な「Mirrors On The Sea」など好きな曲が多い。


Simmerdim: Curlew Sounds

2022年5月のリリースのコンピ作品のレーベルはCurlew Soundsから。

イギリスで絶滅の危機に瀕しているカーリューなる鳥にインスパイアされた作品のコンピレーションというだけあって、13曲目以降はその鳥の鳴き声と思われる音がサンプリングされただけのトラックが収録されている。

ミュージシャンはイギリスだけでなく、カーリューが移動するとされるフィンランドなどからも参加しているとのこと。
そのせいかどことなくフォークロアっぽい印象を与える楽曲を含み、とてもユニークなコンピレーションとなっている。

全体的にスピリチュアルな印象の穏やかな曲が多くて、女性ヴォーカルのコーラスが美しいTuuletar「Kevään Kajo」や、鳥の鳴き声をサンプリングしたエレクトロニカっぽい楽曲Cosmo Sheldrake「Numinous」がお気に入り。


いいなと思ったら応援しよう!