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Imitation Lover(感想)_心と体、両方の繋がりを求めてること
『Imitation Lover』はlightによる2006年発売のADVゲーム。学園内で目立つ存在の美少女からカンニングを条件に処女をあげると取引を持ち掛けられるのがきっかけではじまるラブストーリー。性行為のシーンを入れるために逆算された都合のきっかけだが、恋人同士の心の結びつきについて掘り下げられているのが好印象。
以下はネタバレ含む感想などを。
心と体、両方の繋がりを求める
来栖樹は実直で大人しい学生で、友人は少なくクラス内で目立たない地味な存在。成績は中の上くらいで勉強が好きなわけではないが日々の予習復習を欠かさない優等生タイプ。
対して、隣の席の一之瀬響は、学校にあまり来ないことや美人であることを妬まれて5千円で売春をしていると噂されているが、本人はそういう他人の目線を気にせずクラスメイトとは馴れ合わない。
自分の楽しいと思うことだけをやるところがあって、樹とは正反対の性格。
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樹にとっての響は隣の席にいるのにそっけない態度を取られるし、自分と真逆のタイプの人間だから接点を持つことは無いと考えていた。
しかし放課後教室に残っていたところ、響から処女をあげるから次のテストでカンニングさせろと取引を持ち掛けられ二人は関係を持つことになる。
だがテスト期間が明けたら響の態度がテスト前のそっけない状態に戻ってしまい戸惑う樹はさてどうするというストーリー。
樹は憧れの先輩、桐沢伊織に悩みを打ち明けるも、性行為を求められてさらに女性のことが分からなくなる。
そこへ追い打ちをかけるように後輩の園村円香から優しくされて、そこにつけ入る自分の行動が、軽蔑している城戸尚弥と同じ穴の狢だと気付き悩むことになる。
悩みの主な原因は「性欲」と「相手を好きになる」という気持ちの区別となる。なぜなら女性を抱けば性欲を満たすことは出来るが、心の繋がりが伴わないと行為の後に虚しさが伴うから。
それについて城戸尚也ははっきりと切り分けており、性欲は腹が減るのと同列で女性を性欲処理の対象だから女性に心まで求めていない。
好きだから抱くことが当然と考える樹とは対照的だ。
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しかし、体を求めるなら事前に心の繋がりもあるべきと考える樹も真っ当なようでいて、相手の気持ちは絶対に分からないし、言葉が心のすべてを表現できるわけでは無いのだから、自分の理想を相手に一方的に押し付けている面がある。
実際、響が最初に樹と関係を持った理由を、響きが自分を好きだからと勝手に思い込んでいたからその後の響のそっけない態度にショックを受けているし、園村円香から体を求められた際に、樹はその気持ちに気付けなかった。
このように樹、響、円香の3人はお互いを嫌ってはいないものの、体と心の繋がりがうまく行かずにすれ違うことになる。
だからこそ、体だけ繋がるセフレの場合、または心だけ繋がっている場合など、一般的に考えた時の”恋人”の枠がどこに収まるのかと考えさせれるところが興味深い。
響の立場からみえること
本編では主に樹の視点で物語が進行するが、響が樹に興味を持つようになった経緯がAnother Storyによって補完され、樹の翻弄された裏側がタネ明かしをされる。
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当初、響は樹に対して何の感情も持っていなかったが、親友の円香が好きな人ということで興味を持ち、軽い気持ちで取引を持ちかけたから、最初に樹とセックスした時点で好意を持つまでには至っていないと言う。
いつから好きになったのかと円香に問われ、好意は無かったが自分の体に樹が感じてくれた悦びを感じたことや独占欲について言及しているが、客観的に見て妊娠できない体とはいえ、大して興味の無い樹と寝る理由としては弱いように思う。
妊娠出来ないことでそこまで自棄になるのかというと、理屈では分かるが響の言葉に共感できない。
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響にとっての円香は常に自分が面倒見なければならない存在で、言い方は悪いが格下に見ていた。
だけど妊娠できないことで、女として円香より劣っていることが許せずに樹と寝たのではないかと思うのだ。
響の口からはそこまでは語られないが、テストはきっかけであって、敢えて樹を選択したのは「格下の円香から樹を横取りしたかったから」というのも理由としてあったと考えた方がしっくりくる。
そうして校内に貼られた伊織の写真をきっかけに、再度樹との関係を深めるうちに心も惹かれていき、円香ルートでの響は口では樹と円香の関係を応援するようなことを言いながらも、「カラダだけなら、ウワキじゃないよ」と樹を誘惑する。
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「心を求める」のと「体を求める」行為を別、と割り切っているかのようで、この時点の響は樹に好意を持っていたはずで、その気持ちを隠してせめて体だけでも繋がりたいゆえの発言だったと考えると切ない。
その後の樹と響を想像してみる
スクールカーストの上と下にいた響と樹の関係性が「妊娠できない」ことで逆転しているかのようで、それが響による一方的な思い込みであり、軽い気持ちで横取りした男が実は運命の男だったというのが物語としてまとまっていた。
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樹の三度目の告白は「ずっとそばにいる」だったけれど、発言の真意として樹に結婚を見すえた覚悟まであるのかと気になってしまう。なにしろ樹は円香ルートで響の魅力を肉体だと認めている。
理想の女性を桐沢先輩に感じて、理想の肉体を一ノ瀬に感じて、そして、理想の関係を園村さんに感じている。
むしろ妊娠出来ないことは、まだ若く性欲旺盛な樹にとって短期的に好都合だろうし、子供が出来ないことの影響を強く感じるのは、同世代が結婚しはじめてからだろうから。
エキセントリックで行動的な響に惹かれている面もあるだろうが、いずれ響も落ち着くだろうし、予測不可能な行動すら何度も続けば予定調和になって刺激を感じなくなる。
そういうどうにも危うげな未来を感じさせるのもこの物語の魅力だと思う。
惜しいと思ったのは、各ヒロインルートクリア後の城戸尚也シナリオ。
伊織の熱意に押し切られたカタチで直也が徐々に気遣いができるような人物になり、指輪ひとつプレゼントしただけで美談にまとめられているのが引っかかる。
特定の女性を好きになったり心の繋がりを求めず、それでも持て余した性欲を処理するために女性を取っ替え引っ替えし、それによって傷ついた女性たちに寄り添えない尚也は人格的に欠陥がある。
悩みなどなくむしろ要領が良すぎて達観した全能の人物として描かれているが、自分に欠けたものを持っているからこそ樹に興味を持ったのだろうし、そのあたりの苦悩が一切掘り下げられていないのが残念。
欲を言えば映画「SHAME -シェイム-」のように、性依存症のせいで不特定多数の女性と体だけの関係を持つことの苦しみを顕在化させていたように、直也の抱える悩みを掘り下げて欲しかった。