目覚め(2)
邪屋は軽く頭を下げると、
「もう一つの質問については、うちの『探偵たち』が優秀だから、とお答えしておきましょう」と答えた。
「なんだ?ということはあんたは公認探偵共の親玉か何かか?」
小森は拳を固く握りしめる。
「まあまあ、小森さんのお気持ちはお察ししますが、どうか落ち着いていただきたい」
「落ち着いていられるか!……探偵共は12年経っても真悟を殺した奴らの手がかりさえつかめない連中だぞ!」
「……ええ、そちらの事情も把握していますとも。柳都の探偵ときたら、全く頼りないことこの上ない。」
「…………何?」
不敵に笑う邪屋の顔を、小森の鋭い目が射貫く。
「だが、私の『探偵』は違うんですよ。……まあ、ちょっと非合法なこともする連中ですがね」
「……どういうことだ」
「いいですか、小森さん。我々は、あなたの大事な息子さん、真悟君を殺した連中のことを突き止めたのですよ」
「…………本当か?…………警察も、公認探偵ですらも見つけられなかった奴らを、あんたの配下が見つけたっていうのか」
小森の目は、期待を裏切られてきた経験を積み重ねた分、隈が色濃く刻まれていた。
「その通りです。といっても、証拠もなく信じられはしないでしょう。…………これを」
そういうと、邪屋は小森に一枚の紙を差し出した。
「調査報告書です。真悟君の事件に関してのね」
小森はひったくるようにしてそれを受け取った。邪屋はなぜか、心なしかうれしそうに見える表情を浮かべている。
小森はそれを熟読すると、
「あんたの言うことは信じよう。…………それで、あんたはここに何をしに来たんだ」
「もちろん、あなたの開発された『チェスゴ』に用があってきたのですよ。お力を拝借したい、とね」
「……そういうことか」
「ええ。間もなく、私の組織に彼らの根城を叩かせる。彼らとの交戦があることは容易に予想されるでしょう。その際、監禁されている子供たちに怪我をさせたりするわけにはいかない。」
「…………話は分かった。だが、あんたらは一体何だ。非合法なこともするという」
「私たちも実のところを言うと、誘拐組織の側に近いのですがね。子供を対象にした犯罪だけは絶対に許さない。そういうポリシーの組織です」
「つまるところ、あんたらも犯罪組織、ってわけか。…………なら、ここまでしてもらって悪いが、俺はあんたらに力は貸せない。帰ってくれ」
「まあ、待ってください。悪いようにはしない。あなたのチェスゴは拝見させていただいたところ、まだ試作品であるようだ。それに、資金面で問題があるのでは?」
「…………そうだ。完成させるためにもう少しの時間と金が要る」
「私が、その開発資金のすべてを肩代わりして差し上げる、といったら?」
小森はうつむいた。どうする。金のために犯罪組織の片棒を担ぐのか。
「まだ、あいつらへの宣戦布告には時間がある。1週間後、また来ます」
そういうと、邪屋は部屋のドアを開ける。
「良い返事を待っていますよ」
帰っていくダークヒーローの背中を、小森は黙って見送った。