出会い
鹿内と俺が出会ったのは、高校生の時だった。柳都でも随一の進学校である府立柳都高校に入学した俺は、小学生のころから続けてきた剣道部に入った。それが当然だと思っていたし、俺自身もまだまだ強くなりたいと思っていたからだ。
鹿内は当時二年生で、先輩にあたる男だった。
「雲居くん、僕とちょっと手合わせしてくれないかな」
入部の前に経験者であることを伝えたからか、あるいはそもそも新入部員に経験者が自分しかいなかったからか。それは俺にはわからない。だが、鹿内は俺を部の紹介としてのデモンストレーションの相手に指名した。次期部長と目されている鹿内の力量を見て、部の実際のところを知ろうという意図もあって、俺はあいつの申し出を快諾した。
結果は俺にとっては苦いものだった。あいつの体格に見合わない重い一撃を食らった俺は、開始30秒も経たないうちに二本とられて負けてしまった。それでも鹿内は「君、本当に筋がいいね」と涼しい顔で驚いてみせたが、それがまた気に食わなかった。
絶対に勝つ。そう決意した俺は、部活以外の時間にもヤツに付きまとい、コツとか、トレーニングの方法とか、昨日の食事とか、趣味とか、ありとあらゆることを聞きまくった。そんな感じで、鹿内が卒業するまでの二年間を過ごしているうちに、俺はいつの間にか、ヤツにあこがれを抱くようになっていた。
結局、鹿内が卒業するまでに勝つことはできなかったが、俺は引退の年に府内で一位の成績を収め、インターハイに進出した。あいつの背中を追いかけていなければ、俺はそこまでに至れたかどうか、正直自信がない。それくらいには、鹿内は教えるのもうまかったのだ。
鹿内は、大学入試も卒なくこなし、柳都大学へと入学した。前々から鹿内は公認探偵を目指すといっていたこともあり、心理学を専攻しながら犯罪関係の学問を収めていった。もはや鹿内に対しては憧れを超えて執着すら抱いていた俺は、翌年柳都大学に進学した。
「雲居君、ついに僕は1級公認探偵の資格を得たよ」
そう告げた鹿内の顔はいつになく晴れやかだったことを今でも鮮明に覚えている。
「僕はきっと、美しい柳都の景色を守る探偵になってみせるよ。雲居君、私の助手として一緒に特級探偵を目指してみる気はないか」
いつも教えられる側だった俺は、この時も特に変わりはないというのに、並び立つものとして鹿内に認められたような気がして、とても嬉しかった。猛勉強して二級公認探偵になった俺は、晴れて鹿内の助手たる資格を得た。
それからの毎日は、探偵と助手という立場の違いこそあれ、鹿内と同じ世界を見られるというだけで、とても輝かしく感じられた。引退まで俺が鹿内を支えるという気概で過ごしてきたし、事実そうなるはずだった。あの事件がなければ。