【禍話リライト】二本立て 夜行バスの窓/十円玉【怖い話】

夜行バスの窓

 これはひとりでバスとかに乗ったら気を付けてほしい、という話だ。
 九州圏内の高速道路で、夜行バスに乗って窓際の席で寝ていると窓をすごくたたかれることがあるという。聞いた人は一瞬、雨の音かな?とか、カーテンの金具でもあたっているのだろうかとか思うのだが、どうも違うらしい。
 自分だけその音のせいで寝付けない。そのうちどんどんイライラしてきて、
「なんだ!」
 と窓から外を見ると、夜なので当然外は暗く、窓ガラスは鏡のようになっている。
 そして見てしまうのだ。すごい勢いで窓を叩いている何者かがいるのを。
そして気づいてしまうのだ。それが鏡像であるはずの自分であることに。

十円玉
 

 十円玉と手書きの特殊な五十音表を用いたお手軽降霊術として有名なこっくりさん。そのこっくりさんには多様なローカルルールがある。これは、語り手が知り合いの女性から聞いたこっくりさんに「人の死期を聞いてはいけない」というローカルルールのある地域の話だ。
  
「私も小学生くらいのころ、例にもれずこっくりさんをしていたんだけど、私は特に聞きたいこともなくて、参加したはいいものの、持て余し気味だったんだよね。とはいっても、せっかく呼んだこっくりさんだし、何か聞くべきだよなあという気持ちがあって、それが良くなかったと思うんだけど」

と彼女は言う。


 ところで、彼女には母方の祖母がいた。その祖母はなぜか自分にだけお小遣いをくれなかったり、自分に対する言葉が冷たかったりした。それで、彼女もその祖母が嫌いだったそうだ。
「ちょうどその時、その祖母が割と深刻な病で入院しててね。悪化したり持ち直したりで、お年寄りって体調が安定しないでしょ、だからそういうのが続いてたんだよね。嫌いだったから早く死んじゃえばいいなとちょっと思ってた」
 そこで彼女は祖母のフルネームを言って、
「(祖母の名前)さんは、いつ頃死ぬんですか?」
 とこっくりさんに聞いてしまったのだという。
「そしたらね、それまで適当にでも動いていた十円玉が、ぴたっと止まって動かなくなったんだよね。『なんだ?』と思うか思わないかくらいで急にまた動いて、スーッと『いいえ』の上で止まっちゃったんだよ」
「答えになってないな……おばあちゃんは死なないってことかな?」
当然、にわかに参加者の間に混乱が起こったらしい。
「だからもう一回、『(祖母の名前)さんは、いつごろ亡くなるんですか?』って聞いたんだけど、今度は素早く「いいえ」に行っちゃってね。そのあと何を聞いてもこっくりさんは『いいえ』としか返してくれなくなっちゃったんだよね」
そうなると、

「こっくりさんお帰りください」
「いいえ」


といった具合に、彼女たちはこっくりさんに帰ってもらうこともできなくなった。
「まあそれでもなんとかローカルルールで終わらせることには成功したよ。今となってはあれでよかったのかなと思うけどね」
と彼女は笑う。

そんなことを忘れたころ、いよいよ祖母が危篤になった。明日をも知れんということになり、彼女も病院へと向かったそうだ。
「病室では、おばあちゃんはおかあさんとか弟のおじさんとかに囲まれてたから、私はおばあちゃんのそばに寄ることはできなくて」
それでもある事に気が付いたという。
「ベッドの上で苦しがるおばあちゃんの手がギューッと硬く握りしめられてたんだよ。苦しいから力が入っているのかな、人の最期って残酷だなとか私も子供心に感じてたんだけど」
なにやら含みのある言い方をする。
「結局、おばあちゃんはそのまま亡くなってね。まあ私としてはそれはそういう状態だったこともあったし、別にそんなにショックじゃなかったんだけど。問題は固く握りしめられてたおばあちゃんの手の方でね。」
そこで言葉を切る。
「力が抜けて緩んだおばあちゃんの手からね、落ちてきたんだ。十円玉が」
 
周りの大人が首をかしげる中、彼女だけは平静を保てなかったそうだ。

(出典)禍話 第一夜(1)

※「禍話リライト」は無料かつ著作権フリーの青空怪談ツイキャス「禍話」より、編集・再構成してお届けしております。

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