ある屋上にて
柳都日報メディアシップの屋上、柳都中心部を一望できるヘリポート。もう日が変わろうというこの時間に、雲間から除く満月が、二人の人間が向き合って立っているのを照らし出していた。
一人は高身長で細身、一人は中背で筋肉質だ。最初に話し始めたのは、細身の方、巷で話題の連続殺人鬼だった。
「君にしてはいい趣味だね、メディアシップの屋上とは……」
若くやや高い声が、物腰柔らかに語りかける。
「お前が、柳都の景色が好きだといっていたのを覚えていた。ただそれだけのことだ」
低く、ぶっきらぼうな声が答える。
「今日が俺ら二人のうち、どちらかの命日になる。お前が勝つにしろ負けるにしろ、ここほどぴったりの場所はそうあるもんじゃあない」
「ほんとにいい趣味してるよ、まったく」
「それは自分の手口を顧みてから言うべき言葉だ。人の命を何だと思っている」
筋肉質な探偵が、怪人のほうへ間合いを詰めようとする。殺人鬼はそれを左手で制して、
「もちろん尊いものだと思っているとも。尊いからこそ、その死に際は美しく彩られるべきだ。そう思わないか?」
「柳都の人間は、お前の芸術作品の材料じゃあないんだ。御託はもういい、お前は今、俺が確実にここで殺す」
「公認探偵もなかなか、血の気が多いものだね。人殺しは職業倫理に大きく抵触するだろうに」
「命乞いか?なんなら俺はお前と心中したってかまわないと思ってるんだぞ」
「まさか、ね。死に際が美しくあるべきという私の哲学に無論例外はないよ。君と戦って死ぬのなら本望だとも」
「なら始めるぞ」
そういうと、筋肉質はヘルメットを着用する。たちまち全身がプロテクターでおおわれる。
「素手で来るわけじゃあないのか。君、やっぱり自分の命が惜しいんじゃないの?」
「馬鹿を言うな。せっかくの最期の闘いを、長く楽しむためよ」
「ま、お互い持てる戦力はフルに用いた方がいいというその考え方は、昔から好きだったよ」
そういうと怪人もヘルメットを着用する。
「じゃあ、殺しあおうか」
「二度とお前に、柳都で芸術は作らせない」
二人の足は、ヘリポートを同時に蹴った。