目覚め(1)
「……仕上がった」
カーテンを閉め切った昼でも薄暗い自宅ラボで、小森連悟はつぶやいた。彼が完成させたのは、一体の試作ロボットである。
「きっとコイツは柳都の子供たちを守ってくれる……いや、守れるように作ったはずだ」
充電ポッドに座らせた試作児童護衛ロボットの肩に手を置いて、小森は自分に言い聞かせる。彼がロボットにつけた名は、「チェスゴ」。子供にも呼びやすい名前をチョイスしたらしい。そこへ、インターホンが鳴り響く。
小森は溜息をついて卓上の受話器を取った。
「……はい」
「小森連悟さんですね」
インターホンの先の声は、自分と同じくらいの年かさの人物、つまるところ50代前半の男を想像させる低い声だった。なぜ名前を知っているのだろう。
「どちら様ですか。宅急便には見えませんが。新聞ならもうとってます」
「ああ、違います。小森さん、少しお話よろしいでしょうかね。できれば中で……」
「私にはその必要性が感じられませんね。不用意に人を家に上げることはしないようにしているので、お引き取り願いましょうか」
「いや、私は別にここでも結構なのですがね。小森さんのほうがお困りになるかと思いますよ。……あなたの開発しているロボットについての話なので」
小森は絶句した。開発のことは誰にも漏らしていない。子供を守るためとはいえ、兵装を搭載した自律思考ロボット兵器が存在するなど、完成前に他人に知られるわけにはいかなかった。
「……いいでしょう。鍵は開いている。お入りください。玄関を上がってまっすぐ行ったところのドアの先に私はいます」
「ではお邪魔させていただきましょうか」
小森が受話器を置くと、間もなく部屋のドアが開いた。
「突然のぶしつけな訪問をお許し願いたい。」
現れたのは、銀髪モノクルにスーツといった出で立ちの中年から初老に入りかけの男だった。
「小森連悟さんですね」
「そうだ。あんたはいったい誰だ。そしてなぜチェスゴのことを知っている」
男は、逸る小森を手で制しながら名乗った。
「私は、邪屋悪実。以後お見知りおきを」