【禍話リライト】写真を隠す/描いた間取り【怖い話】【2本立て】
写真を隠す
心霊写真ブームの当時、禍話語り手のかぁなっき氏が通っていた小学校であった話だ。
ブームだった当時は学級文庫にも一冊は、「心霊写真」など心霊系の怖い話を取り扱った本が置いてあった。その本を巡った騒ぎが起こった時の思い出だ。
クラスではその本を利用して、心霊や怪談といったものを怖がる友人に掲載されている心霊写真を幽霊が写っているという部分にわかりやすいように丸まで描いて見せて反応を見たり、あるいは、本の筆者が見つけていない心霊を見つけて楽しんだり、という遊びが流行っていたそうだ。その本の筆者が、見える人にはもっとみえるかも……などと書いていたことも、そうした流行に拍車をかけた。
あるとき、いじめっ子気質のある少年が、気弱な子に例のごとく心霊写真を見せようとした。見せられそうになったその子は普段はされるがままだったのに、その時はあまりにも怖かったのか、
「やめてよ~」
とか言いながら、机の上に置かれた本のその写真の部分にティッシュをかぶせて見えないように隠した。そうするといじめっ子の方は面白くない。
「なんだよ見ろよー!」
と、写真の上のティッシュに手を触れる。すると。
ぶちゅっ。
ハエほどの大きさの虫のような何かをつぶすような感触が、ティッシュ越しにしたそうだ。もちろんティッシュの下には、その本のほか何もない。
それ以来そのプチいじめっ子は、そういういじめ行為はやめたという。それでも、あの日に感じた虫のような何かをつぶした手の感触は、いまだに忘れられないという。
描いた間取り
霊能者に相談するのは良くない。
会社で知り合った、柴田さんに聞いたそういう話だ。
昔、柴田さんの家庭で調子の悪いことが続いた時期があったそうだ。風邪を引いたのかなと思っていたお父さんが肺炎だったとか、妹さんに新しいほくろができたのかなと思っていたら、皮膚がんまではいかないようなものの切除する必要のある悪性の腫瘍だったりとか、おばあちゃんが転んで骨にヒビが入って長期入院とか、そんな感じだ。
ついてないな、なんでだろうなと思う日々が続いていたある日、
「お祓いでも行こうかな」と柴田さんが冗談交じりに社内で愚痴をこぼしていると、同僚の女性長崎さんが、
「あっ、部長あの、私知り合いに霊能者いるんですけど、紹介しましょうか?」と。
「えっ」(あ、この子そういう子だったんだ)と思いながらも、タダだというので、
「あぁ……じゃ、お願いしようかな」
藁にも縋る気持ちがあったのだろう。会社の近くの喫茶店で、昼休みに会ってみた。すると、お父さんの日曜日みたいな恰好の、どこにでもいそうな私服のおじさんが入ってきた。
「どうもどうも、水上です」そう名乗るしぐさも、いかにも普通のおじさんらしい。
「ちょっと見てみましょう」目を瞑って頻りにふんふんと頷き始める。柴田さんもすごいなぁ、わかるんだぁなんて思っていた。そうして数分が経ったころ、水上と名乗ったその男は、紙かなんかにさっとボールペンで、なにかしらを描き始め、
「あなたの家のここが玄関だと思うんですけど、ここから……」水上が描いたのは、家の見取り図だった。水上はそれをもとに風水的なことを説明し始めたのだという。ところが。
「家の間取りがね。全然違うんですよ。私の家の間取りを描いたつもりのようなんですが」
柴田さんが思うに、間取りが完ぺきだぁ、説明してないのに、すごぉい!みたいな流れで聞いていく状況だったんだろうというのだが、違う。前提となる間取りが。一軒家というところはあっていたが、どうみても間取りが違うなあと柴田さんは首をかしげていた。
それでも水上は親身に、
「ここは良くないな、でも家の造りがそういう風にできちゃってるから、どうしようもないんで、私の力をお貸しして……」と、その場で数珠とか、呪い道具の類を握ってブツブツ言っている。
(無料でここまでやってくれてるんだし、ここで違うっていうのも悪いなあ)と神妙な顔で聞いていたら、15分くらいむにゃむにゃむにゃむにゃ言った後に、
「はい、これでもう大丈夫だと思います」と水上は顔をあげた。そのあと、サボテンを買いなさい、サボテンを買うと運気が向上すると頻りに言われ、
「わかりました、ありがとうございます」
「いえいえ……」
そうして、昼休みも終わりごろ、別れて会社に帰ったそうだ。
「どうでした~?」と長崎さん。
「ああ、まあまあまあ……いい先生でね……」
「そうでしょうそうでしょう、間取りパッと書いちゃうでしょ。当たってたでしょ?」
こちらを心配して紹介してくれた手前、長崎さんにも「違ったよ」とは言えない。
「ああうん……」お茶を濁すしかなかった。
とはいえ、それ以来柴田さんの家には「ツキが戻った」そうだ。不幸の連鎖が絶ち切れたのだという。それどころか、漫画のような話だが、例えば商店街の福引でいいテレビが当たったりするというように、しばらくいいこと尽くめでさえあったと柴田さんは言う。
「その霊能者さん、なんか間違ってたけど、むにゃむにゃ言ってた呪文とかああいうのは正しかったのかななんて思って、相談してよかった話だ!なんて思ってたんですけどね」
それから1か月とたたないうちに、紹介してくれた同僚の長崎さんから訃報を聞いたそうだ。
「あの先生急に亡くなっちゃったんです。急な病気で、見つかった時は手遅れみたいな。働き盛りでねえ……で、実は今日お通夜なんですよって言うから、一応恩人は恩人じゃないですか。じゃあ、今日はちょっと予定もないから、俺もお通夜だけでも顔出そうかなって」
それでその日、初めてその霊能者の家に足を運んだ。
棺の中の遺体の顔は、何をしたら1か月でこうなるか、というほどにすごく痩せてがりがりだった。その遺体の顔に気づかされるように、柴田さんは違和感を覚えた。
「来たことない家なんですよ。ほんとに。通夜のことを聞いた日に初めて住所を知ったくらいなんですから。でもね、トイレを借りようと思ったときに、自然と方向がわかるというか」
そうして用を足して廊下に出た時に気づいた。廊下の突き当りに、枯れたサボテンの小鉢が置いてある。
「間取りがね、同じだったんですよ。私に書いて見せてくれたあの間取りとそっくりそのまんま……」霊能者水上がなぜ自分の家の間取りを描いていたのかは、いまだにわからない。
「ひょっとしたらなんですけど、そのときもう憑りつかれていたというか、やばい状況で、錯乱している状況だったのかもしれないですよね」
そう柴田さんは語った。
「家の不幸が断ち切れたのは本当なんですよね。でも、これって、水上さんが無意識に私の家の不幸を肩代わりしてしまったからなんではないかな……と思うと、やっぱり心に靄がかかったような感じがしますよ」
だから、霊能力者に相談するのは良くない。
(出典)禍話 第一夜(1) 禍話 第一夜(2)
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