私の柳都は譲らない
私は悪人だ。ただの悪人ではない。いわゆる極悪人、凶悪犯罪者のたぐいであるといえるだろう。
私の30年の人生において、不幸にしてきた人間の数は知れない。地を這う蟻をただ歩いているだけで踏みつぶしたとしても、気にする人間のほうが少ないだろう。私にとっては、人間も蟻と変わらない。些事なのだ。
命をもてあそび、私腹を肥やす。そうして私は暮らしてきた。愛し子を亡くした親の慟哭も、親の愛を奪われた子の絶望も、この私の人生のスパイスに過ぎない。
私が指を少し動かすだけで、人々は略奪され、犯され、そして死ぬ。私のもとに集う悪人ども。私の手足となり、人々の悲鳴を製造する彼らこそ私にとって尊きもの。
その彼らが、殺される。無辜の民の阿鼻叫喚を失った私の食卓からは、まるで無声映画のように色彩が欠落して見えた。
私の右腕たる男も殺された。良いスカウトであった。失うには惜しい男だった。守ることができなかった自分を責めた。これは私への宣戦布告に等しい。私の縄張りを荒らすものは、探偵であれ何であれ絶対に許すわけにはいかない。
必ずや正体を暴き、その断末魔を肴に祝杯を挙げてやろう。