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六欲天・夜摩天について
### **夜摩天(やまてん / याम / Yāma)—仏教の六欲天の第三天**
夜摩天(やまてん、**Yāma**)は、仏教の宇宙観において**六欲天(ろくよくてん)**の第三天に位置する天界です。「六欲天」は、仏教における三界(欲界・色界・無色界)のうち**欲界(よくかい)**に属する六つの天であり、欲望が存在する世界です。その中で夜摩天は、「時間を超越する天」とも解釈され、昼夜の区別なく楽しみが続く世界とされています。
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## **1. 夜摩天の位置と構造**
夜摩天は仏教宇宙論において、須弥山(しゅみせん、Sumeru)の上空に存在するとされます。
### **(1)六欲天の階層**
夜摩天は、六欲天の中で第三天にあたります。
1. **四天王天(してんのうてん)** - 須弥山の中腹
2. **忉利天(とうりてん)** - 須弥山の山頂(帝釈天の住む天)
3. **夜摩天(やまてん)** - 須弥山の上空
4. **兜率天(とそつてん)** - 弥勒菩薩が住む天
5. **化楽天(けらくてん)** - 他の者を変化させて楽しむ天
6. **他化自在天(たけじざいてん)** - 他者の作り出した快楽を自由に享受できる天
夜摩天は、須弥山の山頂よりもさらに上空にあり、「天空の城」のような世界であるとされます。
### **(2)夜摩天の高さ**
仏典によれば、夜摩天の高さは須弥山の頂上(忉利天)から**42,000由旬**(約537,600 km)上空に位置しています。
- **須弥山の高さ:84,000由旬(約1,075,200 km)**
- **夜摩天の高さ(地上から):126,000由旬(約1,612,800 km)**
- **兜率天(とそつてん)はさらに上空にある**
このため、夜摩天は「空中に浮かぶ宮殿のような世界」とイメージされます。
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## **2. 夜摩天の特徴**
### **(1)快楽に満ちた世界**
夜摩天は、六欲天の中でも特に「快楽と楽しみが絶えない」天界として知られています。
- **時間の概念がない**:天界なので昼夜の区別がなく、楽しみが尽きない。
- **苦しみが少ない**:四天王天や忉利天に比べ、戦争や争いがほぼ存在しない。
- **食事が不要**:香りを嗅ぐだけで満腹感を得ることができる(嗅香食)。
- **会話不要**:意志疎通はテレパシー(心念)で行われる。
### **(2)美しい宮殿**
夜摩天には、美しい**天宮(てんぐう)**や**天苑(てんえん、庭園)**が広がっています。これらは宝石や黄金で飾られており、極楽のような景観を持つとされます。
- 宮殿は金や宝石で飾られている
- 天女や天人が住み、音楽や舞踊を楽しんでいる
- 昼夜の区別がなく、常に光が差している(=「不夜城」とも呼ばれる)
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## **3. 夜摩天に住む者**
夜摩天には、一般的に**天人(てんにん)**や**天女(てんにょ)**が住んでいます。
### **(1)夜摩天の主**
夜摩天の王は**須夜摩天王(しゅやまてんのう)**または**夜摩天王**と呼ばれます。
- 「須夜摩」はサンスクリット語の「Suyama(सुयाम)」が語源で、「美しい時間を持つ者」という意味。
- 須夜摩天王は、夜摩天の最高の統治者であり、善行を積んだ者が転生するとされる。
- 帝釈天(忉利天の支配者)と親交があり、仏法に対する理解がある。
### **(2)夜摩天に生まれる者の条件**
夜摩天に生まれるためには、過去世で以下のような善行を積む必要があります。
1. **五戒(不殺生・不偸盗・不邪淫・不妄語・不飲酒)を守る**
2. **布施(ふせ)** - 他者に施しを行う
3. **慈悲の心を持つ** - 他者を思いやる心
4. **修行をする** - 瞑想や戒律を守る
5. **音楽や舞踊を楽しみながら善を行う**
このため、夜摩天の住人は前世で善行を積んだ者が多く、極めて寿命が長いとされます。
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## **4. 夜摩天の寿命**
夜摩天の住人の寿命は、人間の基準では計り知れないほど長いです。
- **夜摩天の1日 = 人間の200年**
- **夜摩天の寿命 = 2,000天年(=人間の144万年)**
つまり、夜摩天の住人は人間界の時間で考えると**144万年生きる**ことになります。
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## **5. 夜摩天の仏教的意義**
仏教では、夜摩天は快楽に満ちた世界ですが、**まだ「悟り」には到達していない**とされます。
- 欲界に属するため、**「欲望」は完全には消えていない**。
- 長寿だが、いずれは寿命が尽きて輪廻転生する。
- 夜摩天での快楽に溺れると、修行を怠り、いずれまた人間界や地獄に堕ちる可能性がある。
したがって、仏教では**「夜摩天に生まれることは善いことだが、そこに執着すべきではない」**と説かれます。
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## **6. まとめ**
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| **天界名** | 夜摩天(Yāma) |
| **位置** | 六欲天の第三天、須弥山の上空 |
| **天王** | 須夜摩天王(しゅやまてんのう) |
| **特徴** | 欲望はあるが苦しみの少ない楽しい世界、時間の概念が希薄 |
| **住人** | 善行を積んだ者が転生 |
| **寿命** | 2,000天年(人間の144万年) |
| **危険性** | 快楽に溺れると修行を忘れ、輪廻の流れに飲まれる |
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### **夜摩天とは「不夜城」**
夜摩天は昼夜の区別がなく、絶えず楽しみが続くことから、**「不夜城」**のような世界とされます。しかし、そこに執着すると悟りには至れないため、仏教では「一時的な幸福の場」として描かれます。
このように、夜摩天は六欲天の中でも特に快楽と美しさに満ちた天界であり、まるで神話のような世界観を持つ場所です。