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残響4

車は高速の入り口へと吸い込まれていく。
夜の広島高速に車は少なく、車内には外国車特有の
低いエンジン音だけが響いていた。

「話したくなければ、話さなくていいし、
話したくなったら聴くし。まあ、聴くだけだけど。」

コウ先生の言い方はいつもこうだ。
甘くはない。
一見突き放す様でいて、隣には居てくれる。
それはどんな問題も本人にしか超えられないと、
自分もそうやって超えてきて知っている人の言い方だった。
甘いだけの言葉は誰にでも吐ける。
その方が耳障りの良い人もいるだろう。
でも私はこの真摯な姿勢が信頼に足ると、どこかで感じていたのかも知れない。できればもっと穏やかな日常の内に、それを見出せたら良かったのに。

窓の外に顔を向けた。背の高いオレンジ色の照明がフロントガラスをヒュンヒュンと駆け抜け、街の景色を眼下へ置き去りにする。

やっぱり、こうめの事は言葉になりそうにない。
けれどその真偽を問う為に一言口に出してみた。

「子どもが…」

その後はやはり形を成さない。涙が、溢れる。

「ダメだったんです…へへへ…」

洟をすするのをゴマかす為に思わず笑ってしまった。
人生で一番笑えない。滑稽だ。

もうけてはいけない子どもを迎えようとしたから?
それとも淡い恋心を抱いた罰だろうか。
両親を悲しませると分かって選択した道だからか…

その全部なんだ、多分。

でもその全てを自分で負うと決めたのに、
子どもを死なせてしまった。巻き込んでしまった。
それだけが本当に申し訳なかった。

コウ先生は驚いた様子もなく、
そか…と言った後しばらくして口を開いた。

「聞いた話ですけど。
 流産したこどもは、何回もチャレンジして
 くるから、産まれたこどもは
 同一人物だそうです。」

その目は真っ直ぐ前を向いていた。
「何回流れても必ず同じ子がやってくると。」

鼻の奥がツーンとして、また窓の外に目をやった。
照明はいつの間にか視界から去り、
山影が車を飲み込む様に迫ってきている。
私は何も言えず、ただぐすぐすと洟をすすっていた。
つづく

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