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大人になることは、自由になること。

「私は、大人の顔色を窺う子供だったのです。これは屈辱以外の何物でもありません。
そして、一度屈辱を知った子供にとって、子供であるということは、正に屈辱に甘んじている状態以外の何物でもありません。
その時願うのは屈辱からの脱出、即ち大人になることです。
大人になるということは、だから自由になるということです。

世間ではよくこういうことを言います。
『どんな大人でも、かつては純真な少年の心を持っていた筈だ、でも大人になって行く過程でそれを一つずつ見失って行く。僕達は決してそうはならない。いつまでも少年の純真な心を抱いて行こう』
私はかつて子供と大人の中間で、長い間こういう考えに悩まされ、憎んでいました。
少年が純真であるというのは嘘です。
子供は常に自分の無力さに打ちのめされているのです。そして自分が無力であることを知るのは、子供にとって最大の恐怖なのです。
ですから子供にとって、大人になることは即ち、自分の無力さを克服出来るようになること以外の何物でもありません。」

橋本治「子供に、なる」
(『日本の名随筆 子供』)


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