キャリアの転機をポジティブにとらえる方法 その2 カウンセリングの諸理論
外資系IT企業で長年働いていると、度重なる組織の戦略変更や短期間で成果を求められ続けること、さらにここ数年生成AIが出てきてからの市場や製品のUpdateの速さは尋常ではなく、ついていくのに本当に必死で、変わりたくなくても変わらなければならず、どうにかこうにか前向きに考えて自分なりのキャリアデザイン(生存戦略!)を描かねばなりません。この数年心理学をあえて大学に通ってまで学んだのも、もっと科学的にまたは研究に裏打ちされた人の感情や思考の捉え方を学び、私自身、チームのみんな、そして関わる多くの同僚やお客様、パートナーの方にちょっとでも一緒に仕事していて楽しい、その考え方動くと働きやすい、そして成果が出てきたと言ってもらいたいからです。まだまだ学部レベルの知識ですが、少しずつ、考え方、捉え方を変えるヒントを提供できたらうれしいな。。。
さて、今回の内容は「ものごとの捉え方」を変容するのに役立つカウンセリング理論について、心理学部の授業やExtraで受けた講座の本当に超概論まとめにしようと思います。
3つの異なるアプローチ
大きく分類すると3つ「精神分析から発展した精神力動的アプローチ」「行動主義心理学から発展した認知行動療法」「人間性心理学を基礎として発展したヒューマニスティック」です。あとはこの複合で折衷的・統合的・多元的な考え方、音楽やアートを使う芸術的なもの、家族や文化の特性を生かしたものなど本当に多様にあるようです。
精神分析と精神力動的アプローチ
かの有名なフロイトの精神分析から発展し、思考や感情、行動を規定しているのは無意識的な力への洞察や理解が深まるのを支援するアプローチです。フロイトの「夢判断」はとても有名ですね。人間の心は意識・前意識・無意識の3つの領域からできているという「局所論」では、無意識は欲望の塊で本人が認めたくないものを意識から締め出して、無意識の中に閉じ込めていると考えます(抑圧)。日中は前意識によって「検閲」されて取り締まりしてるそうなんですが、でも睡眠するとこの前意識の検閲の力が弱まり、無意識に閉じ込めた欲望の塊・願望を抑えきれず、そればかりか前意識はその願望を置き換え・象徴化・圧縮など加工までして映像化して夢として意識できるようになると。前意識は風紀委員みたいなものだと思ってたけど、寝てる状態だとまるで別人、クリエーターの働きしてたんですねw びっくり。
ミスチルの歌でも有名なエスは精神分析では「構造論」の3層モデルでエス・自我・超自我の一つです(Wikipediaではエスが自我と書かれてるけど厳密には違うと思う。。。)。エスは本能的性欲動の源泉です。超自我とは良心または道徳的禁止機能で、とにかく検閲をし抑圧します。で、面白いのが自我はエスの内的な欲求と超自我の禁止機能の力関係を調整して現実世界で適応してくれるそう働くそうです。そして自我には他にもとても大切な働きとして防衛機制があります。例えば私はとにかく不安なことや焦燥感があるととにかく本を読んだり学校や講座とるのですが、これも一種の防衛機制の一つで「知性化」と呼ばれるものだそうです(私は勝手に知識武装って呼んでました)。その他にもある人物を「同一化」したり、とにかく感情から距離を置く「隔離」、やりたいことと正反対な行動をする「反動形成」なんかもわかりやすいですね。あと面白かったのは知性化が弱まると「合理化」という防衛機制が働き、歪曲された事実を用いたり飛躍したり無理やり納得させることもしちゃうようです。その他にもあり全部で12種類くらいは定義されてます。いやー、面白いですね。そうか、自我か、、、心理学は兎に角人間の欲望との向き合い方(そのための分析や推論)が多いです。
認知行動療法
科学的で実証的な指向性を持ち、直接的に行動もしくは認知を修正することによって変化を生み出そうとする介入技法です。行動療法はもともとはパブロフの犬で有名なレスポンデント条件付けやスキナーのオペラント条件付けなどの学習理論がルーツなんですよね。だから不適切な行動を減らして適切な行動を増やす(学習する)という考え方。授業で学んだ時、とても分かりやすい、でも、そんなに人間って単純だっけ?と疑問に思いつつ、自分の行動振り返ると、梅干しが出たら口は酸っぱいし、アイスクリーム見たらもう美味しいって思ってるしな。。。
また認知的アプローチはエリスやベックが有名。エリスの著書はどれもとても素晴らしいのでまたどこかで紹介したいと思いますが、出来事の捉え方、認知を変容することを通じて感情や行動を改善しようとします。わかりやすくABC理論と言われ A: Activating Event(出来事)、B:Belief(信念)、C:Consequence(結果)です。出来事があった際、結果を起こすのはBの信念に理性的なものと非理性的なものがあるからだと。またその後 D:Dispute(論駁する)とE:Effect(改善する)が加わってABCDE理論と呼ばれることもあるそうです。出来事は起きてしまうものだからしょうがないとして、どうそれをとらえるか、まさに認知ですね、そこをちゃんと分析して、変えられたら、私にとってのその出来事の意味が変わってくる(ことでその後異なったポジティブな行動を選択できる可能性が生まれる)。
さらにベックはこのB:Belief(信念)を精緻化して、認知のレベルを3つ定義してます。「自動思考」、深層にある「スキーマ」、そのスキーマから自動思考を生じさせる「推論の誤り」です。この自動思考って本当に名前の通り自動で、勝手に生まれてきてしまう思考です。しかもその思考は過度に一般化され歪曲(推論の誤り)してたりするのに、止められず。。。嫌ですね、でも誰でも経験しますよね。
ではどうするといいかというと、「セルフモニタリング」「エクスポージャー法」「行動活性化療法」「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」「認知再構成法」「問題解決療法」などなど沢山技法があるんだそうです。学部レベルの知識だとほんっとタイトルくらいしか分からないのですが、セルフモニタリングだけはすぐに試せるのでお勧めです。ジャーナリングなどという言葉で説明されることもありますが、とにかく自分の行動観察日記をつける、それだけです。個人的には書くというその行為自体に既に癒しの効果と、考え方を整理したり落ち着いて次を考える余白を与えてくれる力があると思ってます。よくない行動ばかりが並ぶかもしれませんが、書き出してみるとふと客観的に自分の自動思考を発見して、あれ、こんな風にとらえる必要なかったのにな、と気づくことがあるかもしれません。もうそれでOKです。キャリアデザインのテーマの時にもここはまた深堀したいと思います。
さらにこの認知行動療法は第3次世代とも呼ばれる、最近よく耳にするマインドフルネスやアクセプタンス&コミットメント、セルフコンパッションなどが新しい時流です。この辺りもまたゆっくりと本を紹介しつつ考察してみたいと思います。
ヒューマニスティック(人間性心理学)
長文になってきたので最後はさらっといきます。実現傾向や統合性といった人間の高次機能を重視する理論が人間性心理学です。相手との関係性を重視します。これはカウンセリング理論の中では必ず出てくる理論で、カールロジャーズという大先駆者がいます。面白いのが、先に挙げた2つの精神分析や行動主義心理学が人間を機械論的あるいは決定論的にとらえており、主体的で健康な側面を軽視しがちであることへの反省や異議申し立てとして発展している点です。カウンセリングの理論としては来談者中心療法としてロジャーズは発展させ、クライエント中心、とにかく傾聴をすること、非指示であることなどを説いています。主要理論としては「自己理論」があり、人は自己構造と体験の一致または不一致によって心理的な適応・不適応をとらえているとしています。カウンセリングなどを通して最終的なゴールは「十分に機能する人間(Fully Functioning Person)」という考え方です。7つほど提示されおり、たとえば「体験に開かれる」や「いま・この瞬間を生きる」、そして何より「創造的」である状態などです。人間を中心とし、日々の生活の中で「いま・ここ」の体験を創造的に楽しむ、嘘偽りなく誠実に自己と一致して、というのはまさに理想の状態かもしれないですね。それをカウンセラー、本当は可能なら日々の職場や家庭、友人との会話の中でその状態が保たれたり、一時不一致な状態になったとしても戻れたり(レジリエンス!)したらいいですね。そいう考え方を様々な転機の中でゆるりとでも持てたらと思ってます。
まとめ
今日は心理学の中でも転機をポジティブにとらえるためのヒントになればということで、カウンセリング理論を超概論で主流の3つをまとめてみました。発達過程やそもそもの自分の自我などで欲望との向き合い方も人によって異なり、出来事に対してどのように行動するか、またはその出来事を認知するのかによっても大きく異なり、それ自体を変容させることで違った考え方・行動もできそうです。さらには人間は元来高次元で実現したいという傾向があるという人間を中心とした考え方。体験や世間との不一致をこれまた人との会話の中で解放していくというとらえ方。どれが正解とか1つに絞るなどではなく、そういった沢山の考え方・捉え方もあるから、自分の考え方や行動の傾向を少し見つめられたらいいなと思います。