お花のこと 先生の思い出
子どもの頃から草花が特に好きだったわけではないんだけれど
いけばなを習い始めて、もう三十年近く経つ。
他のことは三日坊主になりがちな私だけれど、お花だけはなぜか続けてこられた。最近はアレンジメントも少しかじったりしているけれど、基本に流れるお花の扱いは同じであって、それはやっぱりあの先生との出会いがあったからなんだろうと思う。
就職して4〜5年経った頃、同僚に「とても素敵な先生がいるよ」と誘われて始めたいけばな。カルチャーセンター全盛期で、平日の仕事終わりの教室は若い女性でいっぱいだった。
習い始めの頃、右も左もわからず、手渡されたお花を切ろうとしたとき、こんな声が飛んできた。
「そこで切ったら短いよ!もうちょっと下の方で切って!」
びっくりして声の方を振り返ると、窓際でお茶を飲んで休憩されていた先生がこちらを見て笑っておられた。
「休憩しててもね、みんなのこと、ちゃんと見てるのよ」と。
おしゃれで、綺麗で、お花がすごくて・・・スタイル良くて、語学も堪能で。自分の母より2歳も年上だとは思えなかった。
なのにとても気さくで、楽しいお稽古で、どんどん引き込まれていった。
花展の生け込みのお手伝いなんかにも連れて行ってくださって、いろんな経験をさせてもらった。
そういうところでは礼儀作法には特に厳しくて、周りの迷惑にならないように、目立たないように「自然に振る舞えるように氣を遣うこと」を教えていただいた。
どんなお花でも、どんな取り合わせでも、先生の手にかかるととても素敵な作品になる。魔法の手をもつ先生。
厳しいこともあったけど、楽しかったな〜先生のお稽古。
東日本大震災の後、先生が花展に出された作品。
会場で見た瞬間「鎮魂」というフレーズが心に浮かんだお花。
そんなパワフルな先生も、2019年の秋に永眠された。
今はまた別のところで、お花を教えておられるんだろうか。。。
そう言えば、祭壇にたくさんのお花が飾られていたのをぼーっと見ていたら、頭の中で先生の声が聞こえたような氣がした。
「その百合そっちじゃないでしょ!お花の向き、反対にしてもっと傾けて!」
さすが、先生だ。自分の祭壇のお花の監修もしてる!って思ったっけ。
先生の訃報は偶然にもお教室で聞いた。その日に生けたお花。先生の笑顔のようなお花になった。
なんとなく、思い出した雨の夜。
これからも、多分、また思い出す。懐かしい、あったかい思い出。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?