おじさんの正義、わたしの正義。
長かった一日。
打ち合わせを終えて、さあ帰ろう、と車に乗り込んだら、フロントガラスに張り紙があるのに気づいた。
今までフロントガラスに何かが挟まれていて、いいニュースだった試しがない。
駐車に関する誰かの嫌がらせ(文句)か、どこかのお店の宣伝チラシか、いかがわしいピンクチラシ的なものか。
どんな恥ずかしいものを長い間貼り付けていたんだろう。
うんざりしながら車から降り、ワイパーから張り紙を抜き取った。
「長時間駐車につき、管理事務所まで連絡を」
なぐり書きでなく、印刷された文字なのがまだ救いだった。
相手はまともだろうし、こちらも冷静でいられそうだと胸を撫で下ろした。
それにしても、なぜ?と訝しまずにいられない。
だって、そこは訪問先の会社の駐車場だし、いつも停めているし、許可も特に要らない旨が入り口に明記されている。
確かに今日はいつもより時間は長かったけど。
今出てきたばかりの玄関を戻り、経費節減でとうに受付嬢がいなくなって内線電話がポツンと置かれたカウンターで、その事務所とやらの番号を押した。
コール音を数回聞いていると、カウンターの後ろから警備員と思わしきおじさんの姿。
なるほど、あなたですか。
受話器を置いて向き直り、張り紙を手に、制帽を被ったおじさんと対峙した。
「会ってたのは誰? 担当者は?」
いきなり警察の尋問のような居丈高な態度で聞かれ、やはり無断駐車を疑われてるのかと愕然とした。
さっきまで会っていた方の部署と名前を告げても、おじさんは疑いの目をやめない。
「総務からこの担当者に連絡がいくけど。いいね?」
「許可不要といっても、我々はいつもどんな車が停まってるか全部チェックしてるんだ。誰も見てないと思ってるかも知れんが。日産のNOTEがどこに何時間停まってたかってね」
まるで犯人扱いだ。
・・・ああ、そうですか。どうぞ連絡してください。お仕事お疲れ様です。
投げ捨てるようにそう言いたいのを堪えて、長時間の駐車の詫びを言い、今後は許可を得てから停めるべきなのか教えを乞うた。
本当ならもう家路の半分は帰ってる頃だろうに。
疲れが無力感となって押し寄せる。
カウンター前のフロアには他の来客もいる。応戦するのはみっともないし、何よりそんな気力もない。
定年間近なのか、再就職なのか、おじさんは明らかに張り切っているのだ。
久しぶりに獲物を捕まえたハンターみたいに。
そうか。しようがないな。おじさんはそれが仕事。
わたしも時間を忘れて打ち合わせをし、仕事をまっとうしただけ。
そう自分に言い聞かせて、頭を下げた。
ありがとう。おじさんのおかげで、またオトナになれたと思うことにする。
だけど一つ。大事なことだから言っとく。
NOTEじゃない、リーフだ。
間違えんな。