忘れてしまうかもしれないすべてのもの」
第一章 その1
2023年夏。
それは、梅雨明けの7月の末日から始まった、夢のまた夢の始まり。
あなたは、枕元に置いてあったfacebookのあるアカウントからLINE上に現れた。
ハンドルネームは「クロウ」さん、26歳の女性だった。
「はじめまして、そしてありがとう」
わたしは意地悪く避けて通れない返事をいつも通りした。
そのクロウさんは、10分後、
「やはり日本の方は礼儀正しいですね」
あなたのその言葉は、お淑やかで落ち着きささえあった。
そして丁寧さも。
わたしは、その言葉から、あるイメージがふっと湧いたのを感じた。そのふんわりした大事な何かを、枕元に戻しながら、
一呼吸して、
「日本についてお詳しいですね」
「隣の国ですから」
「はい、そうですね」
その日、
ボクはあなたのそのチャットである違和感を感じた。
それは、そのあなたの文の文字が、だんだん音となり、声となってわたしの脳に侵食してきた感覚。文字はただの記号、ただあなたの一文字一文字が声という囁きとしてわたしの脳に入ってきた。
この違和感に、その時に、気がついて入れば、良かったかもしれない。
この違和感は、一種の妄想と呼ばれる素敵なものだろう。
夏がわたしの街にやって来た。
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