無拍子(28)
【28 イルカの成人式】
そんな悲しい出来事があっても僕らは前を向いて旅を続けた。
僕もその頃には星図との会話がスラスラできるようになっていたし、横でヒントをピギーがいちいち持ってきてくれていたから、旅はセバ教授を失っても間違える事なく前に進めたんだ。
ただ、鯉のぼりはセバ教授になついていたからね。
とても深く悲しんでいた。
まっすぐ飛べなくなるほどね。
そうしてとうとう15番目の[模擬]という街に着てイルカの雛のピギーの父親のマムシに出会った。
もうそれは出会ったというより、遭遇にぶつかったと表現した方が正しいのかもしれない。
どちらにしても僕らは、長い旅の先っぽでとうとうマムシに出会えたのだ。
僕らの予想よりはるかに巨大だったマムシは、ピギーの顔を見るなり体を震わせて音をかき鳴らし言葉に変えていく
「やあ、ピギー!お前は、あの雛だったピギーだろう!」
ピギーも僕も驚いた。
イルカの雛は言葉の音を出せるようになるころ、街のはずれに落とされるのだそうだ。
落とされるイルカの雛は見つけた人が必ず拾う取り決めになっている。
ピギーの場合はドルトムント伯爵が拾ってくれたんだろう。
そして
『無事、親元にたどり着けば成人になるのだよ』
驚いたのはマムシにあったとたん、ピギーの形、大きさ、色、匂いと香りまでもが大きく咲いたのだ。
イルカの雛だったころのピギーは、小さくて丸くて手のひらサイズの柑橘系だったのに、イルカの成人になったピギーは、長くて、光り輝いていて11,5インチサイズのうるわし系になっていたのだ。
つまり見違えるほど大人になっていたんだ。
「君は、ピギーかい?」僕は思わず問いかける。
「ええ」とだけ。照れくさそうに。おしとやかに。
それから、ピギーと僕とでここまでの旅の話をマムシに話した。話したというより、聞かれたことに答えていたんだけどね。
告げ口をしたわけではないのだけど、[クレピャー]という街でバイヨリンの群れが、ピギーの柑橘系の匂いと香りを取り上げようとして大変だったんだって話した時マムシは怒り出してしまってね。
今からでも[クレピャー]にいってバイヨリンの寝床でヤツらの数を一つ残らずまとめてやるぞ!って具合でね。
慌てて僕らは、バイヨリンの長老の若人にラクダ柄の徳利のラムネ2粒で手を打ってもらったんだって説明をしたら、それはうまい手を打ったなって怒っていたマムシはにっこり微笑んで僕らをほめてくれた。
2日間[模擬]のマムシのたもとで暮らした僕は、彼らへ丁寧にお礼をして鯉のぼりにまたがった。
セバ教授のラクダ柄の徳利を取りだした僕は、鯉のぼりの頭にこすりつけてやる。
鯉のぼりは急にビチビチと跳ね回る。
それはまるでロデオの牛の様です。
そんな鯉のぼりに僕はスニーカーの空き缶をおなかの先に打ち付けると、鯉のぼりはギョッとした顔をしてスルヌルスルヌルと空高くへ舞い上がる。もちろんジグザグにね。
カンカンカンカンカンカンカンカン
広がる青空に僕の空き缶の音が響き渡る。
カンカンカンカンカンカンカンカン
その音はイルカのピギーの成人のお祝いの鐘の音。
カンカンカンカンカンカンカンカン
彼らはいつまでも僕の背中に手を振っている。
さぁ、僕はドルトムント伯爵のもとへ急ごう。
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