無拍子(17)
【17 うるわしの再会劇に底意地の悪い星ども】
今ではもうすっかり薄くなってしまった雷の木はの前で、僕らは少しの間うたた寝をした。
うたた寝から僕らの目が覚めると、雷の木はすっかりその姿を消していた。
相変わらず夜の姿は影もかけらもなくて、月が慌ててあの太陽の周りをグルグル回っていた。
地上で見る月はやっぱり格好が良くなくて、[MOON]と書かれた部分もよく見ると色落ちしていて、今にも[MON]になってしまいそうだった。
[MOON]という名の月は、ペンキ屋さんに早くいって直して治してもらわないと、月をクビにされてしまうだろうな何て思っていると
月は
「考えておくよ」と僕に答えた。
はだしのペンギンのイースカーは街が近づいてくるにつれて、どんどん不機嫌になっていって、街のはずれにつくころ合いにはまったく口を開かなくなってしまった。
イルカの雛のピギーは相変わらず僕のスニーカーがかき鳴らす空き缶の音に合わせて
「ヒョウ、あ、ヒョウ、ヒョウ、あ、ヒョウ」
と気持ちよさそうに奏でていた。
街の看板がうろうろと僕らの周りに現れはじめ、何枚かの看板に[ふぁそらしど]と書かれているのを見て、街がもうそこまで来ているんだなと思った。
そうして間もなく[ふぁそらしどの街の入り口]と書かれた看板が
「ようこそ」と挨拶をしてきた。
イースカーはそれを無視して街の中に入っていく、僕は気の毒になったので少し会釈をしてあげると彼は喜んでいた。
街に入るとすぐに僕の耳には、あの歌が聞こえた。
歌の音の方へ歩いていくと、僕の体はフワリフワリと浮き上がり前に進めなくなってしまう。
どうしたものかと思っている僕の横を、泳ぐようにしてイースカーとピギーが追い越していく。
ちなみにピギーは平泳ぎで、イースカーは背泳ぎだったよ。
僕もそれにならってバタ足をして彼らを追いかけると、マショマロの箱の上に立つすごく騒がしい[カンサイジン]のカジノフォーリーが居たんだよ。
カジノフォーリーは僕に気が付くと、少し待っていてと言う風に髪の毛で僕に合図を送ってきた。
僕らは彼の演奏が終わるまでの間、ゆらゆら空中で風に煽られながら聞いていた。
その歌声は普段にぎやかにしゃべる彼のイメージからは程遠く、宙に浮きだす白い歌声が地面の上を跳ねている透き通った歌声を追いかけまわす。
不思議な歌声だったので、僕は感心させられてしまった。
演奏の音たちが[そろそろ終わりだよ]って言い始めるころには、僕らのほほには涙がいくつもこぼれていた。
カジノフォーリーは演奏がとうとう終わりだよと告げるころには、すでに僕らの前まで駆け寄っていて
「でやった?でやった?」とはぁはぁ息を切らせながら聞いてきた。
「おいお前聞いてくれよう!さいこーよう!いかすよう!カッコイイよう!」って、イースカーはぼろぼろ涙をこぼして騒いでいる。
僕も感想を言おうとしたとき、ピギーが
「セバだっ!!」って言って走り出した。
僕とはだしのイースカーが、残念そうにしているのを見て
「ええねんて、はよ行きや。どこに行ったって俺らはカジノフォーリーなんやから」って、背中をそっと押してくれた。
「またどこかで!」腕を大きく上げて彼のもとを後にした。
ピギーの走っていった方へ急いで向かう時僕は
『これも星たちの何らかのいたずらに違いない』のかなって頭に浮かべると、隣を同じスピードで走っていたイースカーが
「おいお前聞いてくれよう、お前星に何かしたのかよう?」
それを聞いた僕は驚いた。
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