無拍子(29)
【29 よういではないことが世の中には溢れている】
ドルトムント伯爵の元にたどり着くのは、簡単なことではなかった。
何せ、僕は一人きりになってしまったし、鯉のぼりはまだセバ教授の重さが背中にない事に不服を訴えているし、ピギーのヒントがいちいち無くなってしまったし。
今、星図とのコミニケーションだけが唯一の頼りだった。だけどうまく話し合いができてくるころ、決まって鯉のぼりは暴れだす。
そのたびにあのラクダ柄の徳利から、緑色の匂いがするオイルを頭の後ろへ注ぎ込む。
そのおかげで僕は少々の擦り傷だけでやり過ごせてたんだ。
[模擬]の街を出て27日と半分たった頃、僕の背中にスッと温かいぬくもりが送られた。
あの懐かしい香りと匂いとともに。
僕はしばらくその感じを楽しみながら放っておいた。
放っておいたのだけど、さすがに8と二分の1時間ほどたったあたりでこのぬくもりの正体が知りたくなって振り向いた。
イルカの雛だったピギーはポツリと
「あんなに元気だったのに」ポロポロ音を立てている
「父親だったマムシがあなたと別れてすぐに、0番目の羊が現れて魂を引き抜かれてしまったの」ホロホロ顔をゆがませて
「やっと会えたばかりだったのに」ハラハラ両の掌を震わせて
「気が付いたらマンホールが出てきてね。フタの上にのったて気が付いたらここにいたんだ」
僕は言葉を失って、彼女の顔を見るより見るしかなかったんだ。
星図は、ヒントを持っているピギーが来たのならよかったね。
なんて言うようなことを伝えてきたんだけど、僕には父親を失ったピギーにかける言葉が欠片も出てこなかった。
だからしばらくの間、静寂の旅は続いていく。
鯉のぼりは、ピギーの重みに心地よさそうにしている。
暴れるのも控え気味になったんだ。
[模擬]の街より39日たった頃、あのセバ教授の家[ダウリン]と[ボンゴレ大陸]のところにたどり着いたんだ。
鯉のぼりをなだめて僕らは[ダウリン]の庭へと降りていく。
セバ教授のことを伝えなくてはいけないだろうと、ピギーとも話し合っていたからね、だけど空から見てもわかった事だけど[ダウリン]はすっかりくっきり崩れ落ちていた。
ダウリンの庭先に鯉のぼりを降ろすとすぐに、ボンゴレ大陸は走ってきた。
ダダダダダダダダダダダって音を立てて。
セリ立っている部分をあの時のようにガガっと持ち上げて。
『ふふふふふふふf、アンクルはa、連れて行かれたんだねe、っふふふふふうふu』ボンゴレ大陸は悲しそうな顔して。
僕らはセバ教授の話をまだしていなかったので、どうしてボンゴレ大陸はわかったのかと少し首をかしげていると
『ふふふふふふふf、セバ教授だけがa、残ったからねe、それだけでも良かったんじゃないかねe、っふふふふふうふu』ボンゴレ大陸は笑い出し、朽ち果ててしまった[ダウリン]の元に視線を送る。
その視線を追いかけるように僕らは[ダウリン]に振り向くと、そこには黒い影をまとっておぼろ豆腐の顔の彼が、家を直そうと朽ち果てている[ダウリン]の残骸一つ一つにノックをしている。
『ふふふふふふふf、アンクルが居なくなった後o、セバ教授はしゃべる事がa、できなくなってしまったんだよo、っふふふふふうふu』ボンゴレ大陸は悲しそうな顔して、セバ教授を眺めている。
『ふふふふふふふf、君たちはこの後ドルトムント伯爵のところに行くのだろうu、もし良かったらセバ教授もo、一緒に連れて行ってくれないかいi、っふふふふふうふu』ボンゴレ大陸は悲しそうな顔して、セバ教授を眺めている。工場に入れて貰ったら、もしかしたら治るかもしれないからねって、付け加えた。
僕は胸を張る
「もちろんです!」と大陸に向かって宣言した。
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