無拍子(22)
【22 都合のいい僕の物語】
僕にもどうやら危機が来たみたいだ。僕はこの世界の苦境の乗り切り方をまだ聞いていない。窮地はいつでも突然やってくる。羊の怖さは教わってたけど。
でもこれだって偶然ではなくて、必然なんだろうね
そう思ったときに
空にたかっていた蜘蛛たちが
「夜には飽きたね」「夜はもうごめんだ」「夜には飽き飽きだよ」
口々に言いだすとどの蜘蛛も体をブルブルっと震わせる。
蜘蛛たちは僕を見つけると
「それでは、またね、ごきげんよう」と言い残し、ブルブル体を震わせてどこだかにチョロチョロムーっと出てきた時とは全然違って一匹づつ順番に消えていく。
次第に明るくなっていくあたりの中で山のように大きなナメクジの格好をしている羊は、物惜しそうに僕の顔を眺めている。
そうしていると次第に赤い大地に溶けるように消えていった。
僕は、ほっと一息ついたところでホラの穴の中の、はだしの花ペンギンのイースカーや、イルカの雛のピギーや、黒い影で出来ている顔がおぼろ豆腐のセバ教授、雷で出来た大きな木に声をかけていくと、彼らは次々と目を覚まし伸びを一つ二つ。
そこで太陽の下、みんなの顔が真っ黒けになっているのを見て久しぶりに大笑いした。
おぼろ豆腐の顔のセバ教授なんて、黒い影の体だからもう真っ黒の塊のようだったね。
実はこれは、僕と大きな雷で出来た大きな木のいたずらなんだけど、男同士の約束でそのことは言わないことにしている。
僕たちが雷で出来た大きな木に別れを告げて風船に乗り込むころ、最後の蜘蛛が消えてった。
空を見れば少し眠そうな顔の太陽がニヤニヤして…。
まだヘラヘラはしてないや。
風船がフワリフワリ浮いていく。
月が久しぶりの僕らを見てテンションをあげてね[MOON]の文字を太くする
風船はフワリフワリ空へ向かっていく。
セバ教授の操作は、イースカーの運転とは段違いで(イースカーには内緒だけどね)心地の良い空の旅。
風船も僕らの気分もフワリフワリ浮ついていく。
『お前さんには目的ができてしまった。いいかい大体にしてこの世の中には必然しかないんだよ、偶然なんて物はトナカイの餌か何かで十分で、お前さんについてはすべてを偶然なんかで片付けようとする悪い癖があるんだよ。まずはそれを何とかしないことには、いつかニイクラみたいな物になってしまうよ』
風船に書かれたその文字の列を見てセバ教授は
「ウ、ドルトムント伯爵だね。ウ、そうこれも必然なんだよ」と、僕に微笑んで見せた。
ように思えたんだ。顔の位置が逆さまになっていたからね。
ピンチ達は僕の都合を考えてくれたみたいに過ぎ去ってくれたんだ。
これも必然?と僕は僕に言い聞かせる。
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