無拍子(12)

第二章

周りの人間も、君が好きで好きでたまりません

【12 かなり寒い日に、僕らはいきなり旅だった】

トマトの宣言を聞いた後、僕はドルトムント伯爵の顔をドキドキしながらちらと見る。

「ん、ん、ん」と、又咳ばらいを3つ

ドルトムント伯爵はゆっくりと、そして柔らかい声でこう切り出した。

「ペンギンの足は?」

その言葉にまたしても僕は驚いてしまう。

さぞかしトマトも驚いているだろうと、彼女の顔を覗き込む

彼女は凛とした姿で(とは言っても顔にはコロコロとした笑みを抱えている)はっきりとした口調で

「はだしです」

魚屋でマグロの頭をしたドルトムント伯爵は、その答えにとても満足した様子で(それでもマグロの頭は迫力満点だったが)

「よく勉強しているね。あんたの所には、そうさね[緑山猫]だか、[胡椒山椒の木]が居たんだね。そうに違いないだろう。それでね、悪いんだけど工場で働けるかどうかわ今度の夜に☆を作ってもらってそれの出来の如何によって決めさせてもらうよ。結論はその時までお預けだね」と言うと両の手でパンパンと柏手を打って、ワンピラポを一人呼び寄せた。

ワンピラポが僕らの前まで来ると、

「この子を[トウガンの岩]の前に連れて行ってあげておくれ」と声をかけるとワンピラポはトマトの手を取って部屋を出ていこうとする

それを見て慌てて僕もその後を追おうと立ち上がる

「お待ちなさい!!」僕の背中に大きな声

魚屋でマグロの頭を持ったドルトムント伯爵は

「お前さんには目的ができてしまった。いいかい大体にしてこの世の中には必然しかないんだよ偶然なんて物はトナカイの餌か何かで十分で、お前さんについてはすべてを偶然なんかで片付けようとする悪い癖があるんだよ。まずはそれを何とかしないことには、いつかニイクラみたいな物になってしまうよ」

正直に言うと半分くらいしか僕は聞いていなかった。

聞いてなかったんだけど、いつの間にかドルトムント伯爵の魚の顔のすぐ上に、白い風船が浮かんでいて

その風船には彼女が今言ったことがすべて書き留められていた。

僕は、その風船に書き留められた文字たちを、何度も読み返す

3回目を過ぎたあたりで、何となくだけどその意味を理解した。

ドルトムント伯爵は、僕がそうしているのを根気よく待っていてくれた。

僕の様子を見ていたドルトムント伯爵は、僕がその言葉を理解できたと判断したとき、赤い珈琲とやさしい言葉をくれた。「もう一つの[目的]をあなたにあげるわ。あなたはもう一度ここに立ってくださいね」

ドルトムント伯爵の勧められるがまま僕は赤い珈琲を飲みほした。

飲み干すと、例の言葉が書かれている風船に乗り込んだ。

風船の中は透き通っていて、僕が中に乗り込んだあたりで少しひんやりしだした。

薄いゴムでできた風船には、はだしのペンギンが一匹

そいつの足元に隠れるようにイルカの雛が一匹載っていた。

風船はフワリフワリと浮き上がる

この感じはカジノフォーリーの演奏の時のよう。

そう思っていると隣に座っていた、はだしのペンギンが黄色いくちばしをニンマリと開けて言う

「寒いんだから、そこでじっとしていなよう」

「いやさ、カジノフォーリーの演奏の時の様だなって、思っていたんだよ」

ペンギンはまんざらでもないような顔をしている

これも必然なんだろうかと、僕はドルトムント伯爵の言葉を思い返していると、今まででで一番上等な文字で[イースカー]って脳みそに書き込まれたんだ

それで僕は

「イルカの雛はどこに返せばいいのかな?イースカー」って聞いてみた。

「とりあえず、人間人にきいてみるかよう?」と彼が答えたあたりで風船は、すでにかなり高いところをフワリフワリと飛んでいた。

「さぶい、さぶいよう」

「さぶい、さぶいよう」

イースカーは繰り返している。






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英(はな)
ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん