無拍子(30)
【30 こんなに素晴らしい日、三度登場のあの人を添えて】
アンクルを失ってしゃべる事の出来なくなってしまった影を纏っているセバ教授を乗せた鯉のぼりは、更なる重みと僕の操舵についての不満があるのか僕の言うことを益々聞かなくなっていた。
それは、ギラギラしてへらへらした太陽と[MOON]と書かれてしまっている月が知り合いの子についていがみ合っているせいなのかもしれない。
3時間に一回でよかった鯉のぼりへの緑色の匂いがするオイルやりも、今では30分に一回のペースになっている。
もう僕の掌もべちゃべちゃで気持ちが悪い。
そんなんだから、はだしの花ペンギンのイースカーが操っていたあの風船が移動した距離を、倍以上かけて移動しなければいけなかった。
だから当然休憩の数も多く挟まなくてはいけなくて。
[ハチの308]の街の様子を見て安心したんだ。
[ハチの308]の街の人だかり、動物だかり、機械だかり、花だかりにだったからね。
ふらふらと僕らは誘われるようにやって来た。
その、だかりの原因に僕はハッとする。
その要因はマショマロの箱の上から僕らの体重を奪っていく
フワリフワリフワリフワリ
一通り演奏が終わると彼は僕らのところまで、だかりたちをかき分けて来てくれて
「ひさしぶりやん」
カジノフォーリーの笑顔に会えたことがうれしくて、僕の話を聞いてもらったよ。
どんな時でも元気なカジノフォーリーは、僕の話をウンウン聞いてくれた後に
「たいへんやったんやなぁ」と言ってくれてね、それでもそのあとで僕の足の空き缶を見つけ
「あいかわらずやなぁ」って笑っていた。
その日はカジノフォーリーの知り合いのカジノフォーリーがやっている[電車]って休憩所で休むことにしたのだけど、電車の中に入るとそこに
そこに、
そこでね、
涙がまたこぼれたんだ。
だってそこにはね、大きな花瓶があってさ。
その花瓶の横にね。
はだしの花ペンギンだった人間人の姿のイースカーがいたんだよ。
ピギーなんかは僕より先に飛びついていた。
イースカーには僕らの旅の記憶が無くなっているみたいで、自分に泣きながら集まってくる僕らを見て不思議そうにして
「おいお前聞いてくれ、俺はお前たちのことをキラキラに光るニゴーリの角ほど知らないんだ」って何度も言い続けた。
僕らにはイースカーの記憶がない事なんてのはどうでも良い事で(彼の言葉を借りれば『キラキラに光るニゴーリの角ほどだ!!』)彼の元気な姿が見れたことをとてもとても嬉しく思ったのだ。
本当に心の底から
イースカーは僕らの事をまるっきり覚えていてはくれなかったんだけど、黒い影を纏ったセバ教授のことは覚えていて何度も
「聞いてください。セバ教授」と、何度も声をかけていた。
しかし何も答えない様子のセバ教授の様子を見て僕らに、
「おいお前聞いてくれ。教授は、どうしてしまったの?」
しゃべる事の出来なくなったセバ教授の出来事を、すっかり全部イースカーに伝えると、イースカーはフンフン鼻を鳴らした後でニンマリニタニタあの時のようにしてね
「おいお前聞いてくれ。ドルトムント伯爵のところの工場にはとんでもない技術を持った若い女の子がいるんだ!最高のイメージを持っている子なんだ!その子のところに行けば必ず教授は治るはずだ!おいお前『トマト』って名前だからね!忘れないでね!」興奮して言うんだ
「『トマト』ならやってくれると思ったよ!」笑顔に涙を纏わせて大声で僕が言うと、みんなはおかしなことを言いだしたなと言うような不思議そうな顔をしている。
そんなことお構いなしに、僕はうれしくてうれしくて、何てイイ日なんだと何度も何度も繰り返した。
イースカーやカジノフォーリーやピギーの様子なんかお構いなしに。
そして最後にイースカーは
「おいお前聞いてくれ。『トマト』って女の子の技術はそれはもう大変すばらしいんだけど」そこまで言った後に
『たまに変な歌を歌うんだ』って言ったんだ。
僕は頭の中で『トマト』に忠告したんだ。
(だから人前で歌わない方が良いって言ったのに)