無拍子(18)
【18 セバの素顔。蜂の涙*】
急に走り出したイルカの雛のピギーを、はだしのペンギンのイースカーと追いかける。
イースカーは足をベタベタ踏み鳴らして走っている。
その横で僕はガラガラと空き缶の音を立てている。
カジノフォーリーの演奏を聴こうと集まっていた人人、動物動物、植物植物、虫虫、物物の山を乗り越えながら先を急いだ。
小さく見えるピギーは後ろを気にすることなくどんどん進んでいく。
小さい体のピギーはどんどん小さくなっていく。
煙のように消えてしまうんではないかと思うほど。
見失いそうになって走っている僕らの目に、蜜柑屋さんの角のところで一人足を止めるピギーの姿が。
はぁはぁ息を切らせて、そこまでにたどり着く。
「おいお前聞いてくれよう、どうしたんだよう」イイスカーが息を弾ませて言いながらハッとする。
ピギーの前にポカンとたたずむ黒い影があったのだ。
僕も息を弾ませながら
「この影のようなものが、セバなのかい?」と膝に手を当てて聞いた。聞いたのだが誰も答えてはくれない。
黒い影をよく見ていると、ヌ~と影は濃くなっていって人の顔があるであろう部分におぼろ豆腐のような白く丸いもの
「お久しぶりです、セバ教授」
イースカーはいつもの口調ではない口調で挨拶をする
ちょっと緊張もしているみたい
表情のないおぼろ豆腐の顔は、人で言う口の部分に亀裂が入るとしわがれた音を吐き出す。
音を吐き出しながらラジオのチューニングをするようにした後
「ウ、イースカーカイ?」
「お久しぶりです。そうです教授にお世話になっていた花ペンギンのイースカーです」
表情のないおぼろ豆腐の顔の影は何度かうなずき、ピギーの方を向く
「ウ、あなたが陸イルカのマムシの娘のピギーカイ?」
「はい、その通りです。実は父のマムシとずいぶん前にはぐれてしまい困っていたところをドルトムント伯爵に拾ってもらいました。今は父を探し、この二人にお世話になっているところです。ただ幾分にも手掛かりがさっぱり無いため、ドルトムント伯爵の勧めもあって、失礼とは思いましたがセバ教授に何らかの手がかりをいただけたらと後を追いかけさせていただきました」
「ウ、それはご苦労だったね」と言って表情のないおぼろ豆腐の顔の影は腕組みをする。
ちょっと思案を巡らしたセバ教授は
「ウ、マムシだけどね。ウ、星に悪さをしたかね。ウ、詳しくは家に行かないとわからないけどね。ウ、見てあげるよ。ウ、ちょうどいま素敵なティーソーサーもね。ウ、2客買えたところだったんだ。ウ、では早速向かうカイ?」そこまで言ったセバ教授は僕の方を向く
「ウ、これは珍しいのが居るな」とくるくると顔を回して僕を見ているんだと思う、おぼろ豆腐の顔の目のあたりには何もなかったからね。
僕は何となく嫌な感じがしたんだけれど、セバ教授はそれ以上何も言わなかった。
セバ教授は懐?(影の濃い部分から)ラクダ柄の徳利を取り出した。
そのラクダ柄の徳利を逆さまにすると手のひらに何らかの液体を垂らす
すると、どこからか大勢の蜂が集まってきた。
蜂たちは口々に
「え、これだけ*」とか「こちらは蜂だよ*」
「四人もいるのに?*」って、ぶんぶん不満を漏らした。
セバ教授はそれを聞くと手に乗せていた液体を路上に少しずつ撒きだした。
蜂たちはその様子に慌て始め
「待って*待って*待って*本当に待って*ください*」と口々にする
そうして蜂たちはセバ教授の手のひらにのっている液体をストローで吸うと、僕らの背中にちょこんとたかり
僕らを空高く持ち上げた。