無拍子(14)
【14 [ハチの308]のセバって言っていた。】
はだしのペンギンのイースカーに3度僕は言った。
「イースカーの言葉を選んでしゃべるってポリシーは素敵だよ。イースカーの言っている通りだったしね。でもねさっき話していた[氷の角を頭に立てている人間人]は携帯電話を頭に刺しているニイクラたちだし、[見事なくらい立派な氷の角を持つトナカイ]はガードレールの事だよね。[光るカタツムリ]も家の瓦屋根に取り付けられている飾りだし、[夏に降る雪]なんかは、この場所に夏は35年やってきていないんだっていうじゃない。輝いた街どころか草木や花やら動物1本も生い茂ってないよね」
3度目の不満をのべている間中イースカーは「ふう」「はあ」とため息をつき興味がないのだか理解する気がないのだか
「ふわぁーあ」大きなあくびをついたのを見て
4度目の抗議活動をしようとしたとき
「イメージを膨らませるのはお互い勝手なのだよう。そんなことよりお前は星に目をつけられているのだから気をつけなさいよう」
そんなことを言うもんだから僕はぽかんと口を開けてしまったよ
4度目の抗議もなんだかばかばかしくなっちゃって
そんなんだから風船を奇麗にたたんで、ポケットの中にしまう
ついでに僕の頭の上にイルカの雛をひょいと乗せた
それを見ていたイースカーは
「イカスーよう」「最高よう」とか「カッコイイよう」を繰り返した。
それを聞いていたらそれこそ怒っているのがバカバカしくなってしまって、街のいろいろなんてどうでも良い事だと思う
だから
「ごめん言いすぎた」イースカーに言うと彼は笑いながら
「4度はないよう」とつぶやいた。
あてもなく[ハチの308]の街を歩いていた。
街は赤が今までより少し多めに焼けた色のレンガを道中に敷き詰めてある
その上を歩くとあの雲の上の御影石を歩いていたようないい音色がでた
ガン・ガン・ガンガ
イースカーはその音で拍子をとるように
「ん?ん?・ん?ん・?ん?ん?」と唸っている
僕の頭の上のイルカの雛も
「ヒョウ・あ・ヒョウ、ヒョウ・あ・ヒョウ」
あちらこちらに傾いていたニイクラたちは、その様子に
『どこかの楽団が来たよ』だとか『いやいや演武団のあつまりだよ』『サーカス団の登場だ』
そう、言いながら僕らの周りに集まってきた。
風船の中でこの街に来るとき、イースカーがニイクラと言うのはもともと人間人だったものが、機械やら、マシンやら、マシンナによって自分自身で考えることをやめてしまった慣れの果てなのだそうだ。
ドルトムント伯爵の言っていたようなことと同じだった。
だから彼らは、機械やら、マシンやら、マシンナが体を取られてしまっているらしい。
雲の上ではテレビのイノシシだったけど、ここのニイクラたちは頭に携帯電話を刺しているキリンだった。
ニイクラの頭に刺さっている携帯電話が所々で光りだし、音楽を奏でている
『どこかの楽団が来たからきなよ』だとか『いやいや演武団のあつまりが始めるからあつまれ』だとか『サーカス団を見逃す手はないぞ』と音楽を言葉にしている
「あれで街中のニイクラをあつめようとしているよう」小声でイースカーが注意をうながす
僕は少し迷って、ポケットの中から風船を取り出す
それに一気に空気を吹き込むと慌ててその中に飛び込んだ
イースカーの尻尾は少しかじられていたけど、無事に風船の中に乗り込んでいた
風船がフワリと地表を離れると、イルカの雛が僕の頭の上で
「そういえばドルトムント伯爵は[ハチの308]の街のはずれにいるセバを訪ねなさいって言っていたよ」
それを聞いたイースカーは、ちょっとニヤニヤしながら
「セバ教授よう」とつぶやいた
ぼくらの足元には何万匹のニイクラたちが
『どこかの楽団が曲を弾いているんだ』だとか『いやいや演武団の演技はたいそうなものだ』だとか『サーカス団の曲芸だ』と音楽にした言葉を演奏している。