無拍子(25)
【25 風船にも感情にも限界は、あるということ】
アンクル改めセバ教授は(この一連の作業が終わるといつの間にかアンクルは、セバ教授の衣装をすっかり着こんでいた。この姿になっているときはセバと呼びなさいと、強く強く僕に彼は強調した)
「ウ、そろそろ時間だね」
一言声をかけると、大きな丸い蛸と先に立って玄関に向かった。
玄関まで差し掛かると、その内側にダウリンは顔をのぞかせていた。
ダウリンに諭すかのようにセバ教授は
「ウ、ダウリン。今度は長くなるかもしれない」その言葉に、ダウリンは一層の元気を振り絞って
「セバ教授。実は私はそう長くはありません。そろそろ0の彼がやってきそうなのです。教授がお帰りの頃には朽ち果ててしまっているでしょう。それでも私は教授のお帰りをお待ちしております。いつかまた私の体を使って家を立ててもらえましたら、私は幸せです。最後になるのでしょうが、鍵の方を閉めて行ってくださいまし」
セバ教授は、彼の口へめがけて[紫の鍵]を放り投げ
「ウ、さあ行こうではないか」力強く僕らに声をかける。
その姿は精一杯の強がりのよう、僕には思えた。
ダウリンは放り投げられたカギをおいしそうに、モシャモシャ音を立てている。
するとすぐに扉は大きく開き、僕らはそれを待って外に出る。
セバ教授は外に転がっていた[紫の鍵]を拾い上げる。おぼろ豆腐の顔はダウリンに振り向くことはなかった。
しぼんでいたが空気は抜け切れていなかってはずの風船。
そこにおいてあったはずの風船。
僕らはその姿に愕然とする。
イースカーだった子の形ぴったりにしぼみきっていたんだ。
慌てて彼のもとに駆け寄ると、それはもう風船ではなくて子供の形のサナギになっていたんだ。
セバ教授はサナギの殻を叩いてみたり、つねってみたり、くねってみたりしている。
一通り、診断を終えたセバ教授は
「ウ、東の一群のマーベラスのウルィティング星雲の中にある2番星のやり口によく似ているね。ウ、誰か何か心当たりはないかい?」
ビックリした僕は、はだしの花ペンギンのイースカーだった頃のこの子が言っていた事をセバ教授に伝えた。
ウ、ン。ウ、ン。聞いていたセバ教授はそれで合点がいったかという様子で
「ウ、きっと君のことを追いかけていたその星は、イースカーがこんな姿になっているのを知らないで、君だと思って風船にいたずらしたのだろうね」
それを聞いた僕は…
僕は…
僕のせい?
僕のせいだ。
涙が頬を伝う。
涙を止められない。
涙が行き場を失ってしまう。
しゃくりあげる。
とまらない感情は誰かを責めずにはいられない。
「君は黙ってみていたのかい!」ボンゴレ大陸は気まずそうな顔をする。
感情は暴走する。
「君は僕らに声をかけてくれても良かったのではないかい!」ダウリンは苦虫をつぶしたような顔をする。
行き場のない怒りは、我に帰る僕の背中に真実を告げる。
僕は気がついてゾッとする。
「どうしよう、僕のせいだ!」セバ教授の肩らしい場所に手をかける。
セバ教授は顔をそむけている。
そんな様子をイルカの雛のピギーだけはキョトンとした顔で見ている。
スルスルとサナギの横に近づくと、ポンとスプーンで一叩き。
サナギは弾けて中から、イースカーだった子が現れた。
けれど彼の体は冷たくて、呼吸をしている様子もなくてね。
それを見て僕はさらにワンワン声をあげて泣いてしまうんだ。
耳を抑えて迷惑そうにしているピギーは
「ねえねえ、どうして大きな声で鳴き散らかしているの?」
そんなことを言われて僕は
「君こそどうかしているよ!イースカーが!イースカーが!」
って所に、ボコリと音を立ててマンホールが現れたんだ。
あの赤い荒野ではじめて出会った時の様に、そのわきに当たり前のように看板がある。
[彼はここに入ってもイイね。物足りなければ見て行ってよ]
そう書いてあった。
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