無拍子(7)

【7 ワンピラポはなかなかに良い毛並みだし、ラディッシュはなかなかに上等なものだった】

トマトはピンクのバラの花束をワンピラポに手渡す

ワンピラポはそれを受け取ると余った手でトマトの手を取り彼女をエスコートするかのように天空(あまぞら)と呼ばれる透明な階段をのぼっていく

空から現れた時のように高々と足を放り上げ「ひと~つひとつ」と大声で言いながら

僕はその様子を荒野の大地でぽかんと口を開け呆けたようにしていると、階段の途中でクルリと振り返ったワンピラポは

「カジノフォーリーが遅れてどうするんだ」というような意味の言葉を大きな声で吐き捨てると、またクルリと空に向き直しひと~つひとつ」と大声で言いながら空に向かって天空(あまぞら)を進んでいった。

僕はまだ荒野の大地で(ワンピラポは犬なのかなぁ?兵隊なのかな?それにしたってしゃべる犬なら語尾に「~ワン」とか言いそうなものなのに、彼の語尾について出てくるのは「~ぽぬ」だよなぁ)

なぞとグズグズ思っているとワンピラポはふったびこちらに振り向いて

「貴様はカジノフォーリーのくせになかなか面白いことをいうぽぬ。まぁそれはそれでいいのだが、早くこちらに来るんだぽぬ」

トマトももどかしそうにこちらの様子をうかがいながら、天空(あまぞら)の途中の階段でスカートのすそを持ってゆっくりのぼっている

その様子に焦った僕は勢いよく見えない階段を駆け上がろうとした

駆け上がろうとしてびっくりした

僕の足はその天空(あまぞら)を踏みしめることなく一回転しりもちをついてしまう

呆然としながらもこの世界はやたらと尻もちをつく場所なんだなぁなぞと思っていると、血相を変えたようにワンピラポが階段を下りてくる

降りてきながら大きな声で

「カジノフォーリーは、まだラデッシュを持っていないのかぞね?それならそうと言ってくれなければ困るぽぬ」

本当に困った顔をしている

ただ僕はその言葉を耳に聞きながら

「なんていい艶の毛並みなんだろう」声に出しちゃったんだ

ワンピラポはその言葉がとても嬉しかったのか、さっきの尻尾よりもより大きく振り回していた。

「カジノフォーリーじゃしょうがないぽぬ」兵隊のベストのポケットから萎びたラデッシュを取り出す

おもむろに口元へそのラデッシュを持っていくと大きな口をバクンと開ける

するときらりと光った犬歯を使って、萎びたラデッシュをパックリと二つに割った

よだれのついた半分のラディッシュを僕に手渡すと

「さ、カジノフォーリー早くいくぽぬ」って手を指し伸ばし僕を立たせてくれた

ワンピラポは僕を立たせるなりポンポンポンと透明な階段を一目散に上がっていった

僕は今度こそはと、よだれでべたべたした萎びたラデッシュを左手に握りしめて、階段があるであろう場所に一歩踏み出した。

今度は空中の透明な階段にきちんと足がかかり階段を上がることに成功した。

空中の階段を上がっていると、僕のスニーカーの空き缶がガンガンて荒野を歩くのとは違う音を奏でる。

良い音色だなって僕が思っていると、少し上を上がっているワンピラポが

「とても面白い音ぽぬ」とまじめな口調で言ってくれた。

尻尾があったらぶんぶん降っただろう

ガンガンガン階段を上がる

ガンガンガン

トマトが目の前まで追いついた

「君はラデッシュを持っていたんだね」そう尋ねると

軽くうなずいて赤いスカートポケットをゴソゴソやりはじめた。

僕はスカートにもポケットがついてるんだなって不思議なもんだなと見ていると

犬の兵隊ワンピラポが

「貴様のような思考のようなカジノフォーリーには会ったことがないぽぬ」

ガッハッハときれいな犬歯を見せながら笑っていた。

その様子を上の空で見ていた僕にトマトは自分のポケットから探しあてたラディッシュ見せてくれた。

そのラデッシュを僕はまじまじと見つめてしまった。

そのラディッシュは、僕が半分貰った萎びたラディッシュとはまるで違うものだった

きらきら光っていてすごく上等なもののように見えたから

トマトは(良いラディッシュのほうが疲れないのだよ)と教えてくれたような気がした。

「良いね」ってトマトのラディッシュに向かって話しかけると

そのラディッシュが優しい口調で言う

「そんなことないのよ、あなたのラディッシュだってすぐに光りだすから待ってなさいな」

そんなことを言われたので持っていたラディッシュを見てみると、半分だったはずのラディッシュはもうまん丸くてツヤツヤしていた。







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英(はな)
ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん