無拍子(31)
【31 工場に行こう】
次の日の朝(あの蜘蛛がやって来たわけではない。ここではいつも朝にやってくるあの看板の[朝]が来た時が朝なんだ)僕らはカジノフォーリーとイースカーに別れを告げていた。
カジノフォーリーは
「ほなな、またいつかな」って
イースカーはアンクルを失ってしゃべる事が出来なくなってしまった黒い影のセバ教授の事を、くれぐれも頼むよと何度も僕らに頼んでいた。
僕はイースカーに
「必ず治るように僕の出来ることは何でもやってみるよ」と約束して僕らは別れた。
街のはずれの川につないでいた鯉のぼりのところまで行くと、ラクダ柄の徳利を手に取って緑色の匂いのオイルを頭の穴に仕込んだ。
鯉のぼりは1日の休みのうちに機嫌を取り返し、不機嫌を川に流していたらしい。
だから次々にまたがる僕らを嫌がる様子もなくなっていた。
そんなんだから、フワリと浮くや否や空高く舞い上がる。
[ハチの308]の街の空を出る、
さらに高く空高く、
何枚目かの空の扉を開けた時、
雲の大理石を突き破る。
すると宇宙が現れた。
そこに来るまでの鯉のぼりとは思えないくらいのスピードで、
ただ、本物の月の前ではスピードを緩めてもらってね
そこで帽子を取って再びあの挨拶。
挨拶が終わればスピードを上げていく。
ドルトムント伯爵のところに急ぐ。
ドルトムント伯爵の場所まで、
ドルトムント伯爵のプールがキラキラ出迎えてくれる。
ドルトムント伯爵はプールの傍らのダイニングの椅子に座って、僕らの到着を待っていてくれた。
そこへ降りると僕らは早速、プールのポールに鯉のぼりを括り付ける。
鯉のぼりはポールの先から、さっとプールの中に潜っていくと、いつの間にか『ミニチュアダックス』の姿に変わっていき、こちらをちらりと見るとウィンクをして、すぐにその姿消していった。
ワンピラポが奥の扉からやってくる。僕らのすぐそばまでやってくると
「ずいぶん重たいぽぬ」セバ教授を肩に担いで入ってきた扉から出て行こうとする。それを見て僕は
「まって、僕も、僕もトマトのところに連れて行ってください!」って、お願いをしたんだ。
ワンピラポはその声で立ち止まったのだけれど、ドルトムント伯爵のマグロの顔をチラッと見るとそのまま何も言わずに扉から出て行ってしまった。
僕はドルトムント伯爵に
「僕も行きたいのですが」強い口調でそう言う。
僕の声をまるで無視してドルトムント伯爵は、イルカの雛だったピギーに
「あなたは工場で働きなさい」パンパンと先ほどとは違うワンピラポを呼んで、ピギーを工場に連れて行くようにと声をかける。
するとすぐに、ワンピラポはピギーを連れて行ってしまった。
すっかり誰もいなくなったころ合いを見て、ドルトムント伯爵は僕にゆっくりと絵本を読み聞かせるかの様に切り出した
「おかえりなさい。元気な姿を約束通り見せてくれてありがとう。工場に行ってトマトに会いたいのでしょうが、前にも言ったようにここへは、自分の目的を持ってきてはいけない場所なのです。目的をもって此処へ来てしまうと、イメージが乱れてしまうのです。カラーの価値が揺れるとも言い換えられるけどね。そういった事で工場へ入れないものが無理に入ってしまうと、工場で夢をおさめられている者たちが、違うドリームをおさめられてしまいます。そんなことがおこれば、この世は乱れて醒めていくのです。だから、あなたはもうトマトやピギーに会うことができないのですよ」
旅に出る前の僕ならそこで引き下がることはなかったでしょう。
でも、旅を通してドルトムント伯爵の言いたいことが、何となくだけど理解できる気がした。
したのだけれども、どうしても、どうしても僕は一目トマトに会いたかった。
そこでドルトムント伯爵に
「伯爵。トマトがやった試験を僕にも試してもらえないでしょうか?」と、懇願した。
伯爵は
「多分だけれど、やっても無理だろうね」そう僕を突き放した。
突き放した後でワンピラポに僕を[トウガンの岩]へ連れて行くよう指示をした。