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図書館の本に残された謎のメモと私たちの最後の”ガキ“みたいな挑戦

 「あなたたち!授業サボって、こんなところで何してるの?」

 しゃがんでいる奴らの丸まった背中が一瞬ピシッと硬直した。そして、2人はゆっくりと首を回し、肩越しに私の顔を見るなり安堵の息をついた。3月初旬の柔らかい日差しの中、2人の額には汗が滲んでいた。 
「なんだ、晴香かよ。驚かすなよ。」
「斎藤先生のモノマネなんかするな。」
そう言いながら、龍之介と隼人は立ち上がった。制服のズボンは土まみれ。足元にはスコップ2つ。地面には大きな穴がいくつか掘られていた。
「どうせ自習だったし、サボったってどうってことないだろ。」

 ここは体育館の裏手。フェンスとの間に2メートルもないような、狭くて、普段から人気のない場所だ。
「晴香こそ、なんでここにいるんだよ。」
龍之介はいたずらがバレた子供のように顔を赤くして口を尖らせている。一方の隼人は平然とした表情で、手についた土をハンカチで拭いていた。
「ふん。あんたたちが行くトコなんて、だいたいお見通しなのよ。」と私は言ったが、実は、授業前に体育館裏へと走っていく2人の姿を教室の窓から見ていたのだ。今日の最後の授業が自習になったものの、私は2人のように堂々とサボることができず、終了のチャイムが鳴ってから、彼らの後を追ってきた。

 「なんで穴掘ってんの?徳川の埋蔵金でも掘り当てるつもり?」
私は軽い冗談のつもりで言ったのだが、2人は顔を見合わせて、首をかしげている。
「ま、似たようなモノかもしれないな。」と隼人が言い、龍之介がお尻のポケットからスマホを引っ張り出して、1枚の写真を私に見せた。何かの紙にうっすらと文字が書かれている写真。私は画面を拡大し、目を凝らして文字を読み取った。
「体育館、木、3歩め、…次の文字が読めないなあ。一体何のメモなの?」
「これだよ。」隼人がコンビニのレジ袋の中から本を出して、私に渡した。
学校の図書館の本だ。かなり年季が入っているのか、紙が黄色く変色している。題名は『太平洋戦争史 1』。
「この本、俺が借りたんだけど。」隼人が言った。いかにも彼が読みそうな本だった。
 来月から隼人は遠い場所にある大学に進学する。平和について勉強したいという夢を叶えたのだ。ちなみに、龍之介と私は、実家から通える距離ではあるが、別々の大学に通う。小学校から続く3人の腐れ縁は、今月で切れる。  
「その本のさ、最後のページを見てみ。発行日とかが書かれているページ。」
そのページをめくると、さっきと同じ筆跡のメモがあった。
「あ。最後の文字は、宝、ね。」
「そういうこと。」龍之介が言った。「オレたち、先週からもう4回掘ってるんだけど、見つかんねえんだよな、お宝が。」
「ここには木なんて生えてないよ。体育館の前のあの大きな木のことじゃない?」
「そこだったら、最初に掘ったよ。でも、何も出てこなかった。」
「手掛かりはこれだけ?この本の他のページとか、同じシリーズの別の巻に何か書かれているかもよ。」
2人とも首を横に振った。全て調査済みだったらしい。

 隼人曰く、この本を借りる人は少ない。そのため、昔活用されていた“図書貸出カード”が本の最後部にまだ残っている。そのカードを見ると、最終貸し出し日が1982年2月19日になっている。もし、それ以降に借りた人がいたなら、司書によって既に貸出カードが外され、その代わりに、新しい貸し出しシステムで使われているバーコードシールが貼られているはずだ。だから、このメモは1982年2月か、それ以前に書かれた可能性が高い。
「もちろん、1982年以降に館内で書き込まれた、ということも考えられるけどね。」
「そこで、オレたちが学校の古い写真とか調べたら、30年以上前に、体育館裏にも木が10本以上植えられていたことが分かったんだよ。ほら。」
 その写真・・・を写した写真を龍之介が見せてくれた。それは学校を上空から撮影した航空写真で、確かに細い木が体育館裏に等間隔で植えられているのが分かる。その数・・・22本。
「22本もあるのかあ。」私は思わずうなった。

 「卒業式までの1週間で、お宝ゲットは無理かなあ。」
帰りの電車の中で、龍之介が悔しそうにつぶやいた。
「元々、実在するかどうか分からない宝だけどね。」
隼人は半ば諦めたような、寂しそうな口調で言った。
 卒業式まであと1週間。その後、私たちはバラバラになってしまう。
「なんで、もっと早く私に教えてくれなかったの?」
私は大いに不満だった。
「だって、オレたちのことガキだって、また思うだろ。」
今更なによ・・・。私はあんたたちの “ガキ”みたいなことに、小さい時からずっと付き合わされてきたのよ・・・。

 「ねえ。明日、土曜日だけど、学校行かない?私、お弁当作ってくるよ。」
 2人は私の顔を見て、ニヤッと笑った。

 これが私たちの最後の“ガキ”みたいな挑戦になりそうじゃない?

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