<創作>就活~置いてきぼりの私を温めるもの~
私、福島アスミ。大学4年生。就活中・・・とは言い難い状況で、正直、全然動いていない。
内定出た子や、就職先が決まって就活を終えた子もいるとは聞いている。でも、「類は友を呼ぶ」とはよく言ったもので、仲良くしている2人は、私と同じような状況だ。
やりたいことはないし、合同企業説明会に参加して、いろんな企業の説明は聞くんだけど、いまいちパッとしない。第一、リモートで説明を聞いてもリアルに伝わって来ないから、ピンとこないんだよね。この企業が自分に合っているのか、それが本当に私のやりたい仕事なのか、全然分かんない。
分かんない。分かんない。分かんない!<<爆発>>
爆発後はベッドに寝転んでそのまま寝ちゃうか、録画しておいたドラマを見て現実逃避するか、スマホをいじって「あ、この洋服欲しいな」なんて考えて、また数時間が過ぎる、って感じの生活を繰り返している。
数か月前までは、親も口うるさく「就活どうなってるの?大丈夫なの?」って訊いてきたけど、私が「うるさい!」って怒鳴りつけるものだから、最近は何も言わなくなった。平和だ。
ポン♪
噂をすれば、就活落ちこぼれ仲間の近藤ミサからLINE。
「今日さ、久しぶりにショータと3人で話さない?」
ショータというのは、もう一人の落ちこぼれ。私たち3人は同じテニスサークルに所属していて、ショータはそのリーダーだった。
「いいよ。」と私は即答して、夜のLINEイベントが決定。これで今晩は楽しくなりそう!と思っていたけれど、そこで私は驚愕の事実を知ることになるんだ。
「えっ、福島、お前まだ、1社も受けてないの?それ、ヤバくね?」画面の向こうでビールを飲むショータから余裕が感じられた。「オレ、1社内定もらったぞ。」
私の心臓がドクンと鳴った。いつの間にヤツは活動してたんだ?
「えええええぇぇぇっ! うっそぉー!いつ貰ったの?どこから?」
「前からいいなあ、って思ってた、自動車販売の会社。オレ、車が好きだしさ。何社か受けてみたら、2週間前に1社内定が出たんだよね。この会社でいいかな、って思えたから、他の選考を辞退して、この会社に入ろうと思ってる。」
いつも軽いノリで、何も考えていないような感じのショータが、既に進路を決めていたという事実に、私はショックを受けていた。やっとの思いで、「そうなんだ。おめでと。」と言ったけど、私の声は震えていたに違いない。でも、私は一生懸命に平静を装う努力をしていた。
「私も明日、最終面接なんだ。」今度は、ミサからの告白だった。私はもう何も言えなかった。
「近藤はどんなトコ受けてんの?」内定を取った“先輩”のような口調でショータが質問している。
「親からいろいろアドバイス貰って、IT業界を受けることにした。いろいろ調べてみたら、自分に向いているかも、って思えたし。」
「そうだな。近藤は理論的な感じがするし、コンピュータも得意だし、いいんじゃね。」
「ショータ、最終のポイント教えてくれる?」「えっとな、最終では、絶対に・・・」
“こっち側の人間”だと思っていた2人の会話が、私の頭上を飛び越えて進んでいく。2人の言葉がポンポンポンポン軽快に弾んで、大きな川の向こう側へ飛んで行ってしまったようだった。私はただ顔の表面に不自然な作り笑いを浮かべて2人を眺めながら、川のこっち側でポツンと1人立ちつくしていた。
ミサが明日の準備をするからというので、ビデオ通話は1時間で終わった。終わって良かった。終わりぎわに「いつでも相談に乗る」とか「いつでも手伝う」とか、2人が言ってくれたような気がするが、その言葉が余計に私を惨めにさせた。通話が終わった後も、2人の晴れやかな笑顔が映っていたスマホの黒い画面を見つめながら、私はしばらくぼうっとしていた。
夜がじりじりと更けていった。
「おはよう。」
私が声を掛けながらダイニングに入ると、ワイシャツ姿の父も、エプロンをつけてお味噌汁を作っている母も、驚いて私の顔を見た。無理もない。最近、私がこんな早く起きることはなかったし、だから、「おはよう」の挨拶もしばらくしていなかった。
「お、おはよう。」戸惑いながらも父が挨拶を返した。
「アスミのご飯、まだ用意できてないわよ。」母も戸惑っていた。
私は、「大丈夫」と母に返事をして、父の側に座った。
「あのさ、お父さん。」
「なんだ?」父は、私の異様な雰囲気を察知して身構えていた。私は、大きく深呼吸をしてから言った。
「今度、就活の相談に乗ってくれる?」
父の顔がみるみる明るくなった。
「もちろんだよ。今日、早く帰るようにするから、一緒に話そう。」
その瞬間、冷たく固まっていた私の気持ちが解けて、もう少しで涙が出そうになった。「うん。ありがとう。」
母が私の前にお味噌汁を置いた。お味噌汁の香りがほんわり漂ってきた。
「温かいうちにお上がりなさい。」