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東欧の独裁国家ベラルーシ、拷問とITスタートアップとレイヴカルチャー -2
・ナチスドイツと変わらない刑務所での拷問
E:拷問は行われてるの?
A:拷問はもちろんあるし、今でも続いてるわ、いろんなやり方で。
例えば警棒でレイプするとか。女だけじゃなくて男もよ。
それとか太った警官がごっつい革のブーツ履いて、床が倒れた人で埋まってる部屋を走り回るとか。
皆んな出血してて、足や腰の骨が折れてて、トイレもそこでしてるのよ。
腎臓を破られたり、男の多くは睾丸をブーツで圧迫されたり、とにかく色んな方法で拷問されてて、実際、ヒトラーのドイツと変わらないことをしているわ。
それで多くの人がベラルーシを出てるのよ。
私が思うには、一定以上の教育を受けたベラルーシ人には2つの選択肢しかない。
ルカシェンコのファンみたいに見えるようこの体制の中での役割を演じ続けてお金を儲けるか、ベラルーシから逃げるかね。
でなければ、ここに住み続けている多くの人同様に、何が起こってるか理解はしていても見ないようにすることね。
この国ではあらゆる不条理が起こってると思うわ。
今話してたこともそうだし、起こっていることの愚かしさや悪辣さの度合いはもはや計測出来ないくらいだと思う。
それが毎日起こってるのよ、例えば私の母親の職場でも、友達の職場でも、どこでも。
何故ならそれが何年もかけて造られて来たシステムだから。
人々は恐怖の中で生きてきて、ある意味、麻薬中毒みたいになってるの。
こんな生活はクソだってわかってても、何年も何年もそういう生活して来たせいで、他の生活が想像できなくなってて、これが普通だと思うようになってるのね。
私もその精神状態は全く理解できないわけではないわ。
参考記事:New Reich: the Similarities Between the Lukashenko and Hitler Regimes https://www.voiceofbelarus.com/comparing-lukashenko-and-hitler-regimes/
・ベラルーシのパスポートとメンタリティ
E:ベラルーシのパスポートだと、他の国に行くのは難しいの?
A:ロシアとウクライナだけが例外で行きやすいんだけど、ウクライナとは関係が悪化して完全に入国出来なくなった。
今じゃ輸送用のトラックも入れないわ。
E:でも共産主義国のキューバとかは行きやすいんじゃないの?
A:キューバに行くのにビザは要らないわ。
ベラルーシのパスポートでビザなしで入れる国のリストがあるんだけど、タジキスタンとか、アフガニスタン、ロシア、キューバ、ベネズエラみたいな第三世界の国々で、ベラルーシのパスポートで旅行するのは全然簡単じゃないわね。
それに殆どのビザは高いし。
例えばアメリカのビザを申請する時に60ドルか80ドル払ったと思うけど、お金払って申請してもビザが下りるかどうかは別なのよ。
面接で落とされることは十分ある。
でも、ヨーロッパの国のビザは90%くらいは取れるから、そっちのビザの方がずっと人気あるわね。
ベラルーシのパスポートでビザなしで旅行できる国のリスト。これによると、Adeleidaが言う以上の国にビザなしで行けるようだ。
でも、そもそもベラルーシ人の多くには、そもそも自由に行動するというメンタリティがあんま無いのよね。
ソ連時代の影響もあって、あちこち住むところを変えたりみたいな発想をあまりしない。
「軽い人」って言い回しがあって、それは簡単に住むとこ変えたり、旅行したりする人のことだけど、そういう人もいるにはいるけど、少ない。
もちろん現代ではベラルーシはITが盛んで、そういう人たちは仕事で外国行ったりよくするけど、それでもずっと同じ場所に住み続けるのが殆どの人ね。
・東欧のシリコンバレー・ベラルーシ、独裁政権とITスタートアップの共存
Q:独裁者のルカシェンコはスマートフォンを使っていない一方、ベラルーシは先端的なITスタートアップで有名だけど、独裁とITスタートアップはどう共存しているの?
そういう産業は多様でリベラルなイメージがあると思うんだけど。
A:ルカシェンコがタブレットとかスマホが嫌いだというのは実際、外の世界に向けたPRだと思うわ。
実際彼はスマホを持ってると思うけど、だけどごく当たり前のアプリとかも使いこなせてはないと思う。
彼が知っているのは彼の周りにいる人間が見せたり聞かせたものだけで、自分で例えば反政府的なテレグラムのチャンネルをチェックしてる時間があるとは思わないわ。
実際、一番問題なのはルカシェンコ本人というより、彼の周りにいる連中よ。
ルカシェンコはあくまでこの体制の顔で、この体制のPR係なのよ。
ルカシェンコの周りにいる人たちは、ルカシェンコ体制が続く限り大金が入り続けるから、彼らはルカシェンコに知ってほしい情報だけ伝えて、ある意味、彼を操っているのね。
彼らはIT技術の重要性は分かっているけど、ルカシェンコ本人にITとか様々なリテラシーを持って欲しいとは思ってないわ、操りにくくなるから。
・ベラルーシのドラッグ事情
(東欧での仮想通貨決済の額を示すチャート。Hydraでの取引量の多さがうかがい知れる。また経済的には貧しいイメージのある東欧からの送金額がBinance全体の20%を占めているのは興味深い)
E:法律はすごく厳しいみたいだけど、例えば大麻とかはどうやって手に入れるの?
A:実際、ドラッグに対する法律は本当に厳しいわ。
大麻のパッケージが出てきただけでも3から5年の懲役になる。
E:パッケージ一つだけで?
A:想像出来ないかもしれなけど空のパッケージでもよ、大麻の匂いとか使った痕跡が残ってるだけで。
3から5年の懲役になるかもしれないじゃなくて、なるわ。
それか、もし弁護士や警察の偉いさんとかと知り合で、メチャクチャいっぱいお金積めば懲役に行かずに済むけど。
E:どうやって手に入れてるの?
A:特別なウェブサイトがあってね、TORブラウザでそこに行くのよ。
そのサイトにKladmanっていう人たちがいて、ドラッグのECサイトみたいになってるのね。
ちなみにKladは宝物っていう意味よ。
その人たちが、注文の入ったドラッグをミンスクでもモスクワでも、どこかに埋めて、その場所の地図と写真をお客さんに送るのよ。
支払いはビットコインで。
どうやら殆どのKladmanは街の中心部には住んでないわ、だいたい埋めてある場所は町外れの森の中とかだから。
E:どういうのが人気なの?
A:カンナビスね。
それにLSDとかスピードも。
E.ロシア由来と言われるクロコダイルはベラルーシでも人気あるの?
A:あれはすごくハードなドラッグで、流行ってたのは何年も前ね。
そこら辺にあるもので安く作れるから流行ってたけど、本当にロクでもない薬よ。
「ソルト」は聞いたことある?「バスソルト」?
E:何それ?
A:あぁ、アルファPVPっていうクロコダイル並みに酷いドラッグよ。
それをやると皮膚が壊れてきて、内臓も機能しなくなってきて、肝炎になったりする。
全身が腐って来るの。
アルファPVPというのは聞いたことがなかったが、YouTubeでAlpha PVPで検索するとロシア語の動画がたくさん出てくる一方、他の言語の動画は少ない。
https://www.youtube.com/results?search_query=Alpha+PVP
国や地域によってだいぶ差があるようだ。
・それでもベラルーシでパンクやレイブを楽しむには
E:政権批判は違法だけど、パンクスやラッパーはどうしてるの?
大っぴらにルカシェンコを批判したりはしないんだよね?
A:もちろんしないわよ。
ラップ・ソサイエティがどうなってるのか私は知らないけど、パンク界隈でだけ流通してる秘密のレコードとかがあるわ。
反ルカシェンコとか、もっと広く反ファシズムとかを歌ってるやつ。
私の友達のパンクスのレコーディングがネットでアップされてて、それを見つけたKGB(アメリカでいうCIA)が誰が演奏してるのか調査し始めて、尾行されるようになったわ。
2017年頃に警察は彼らをドラッグや反政府思想の容疑で逮捕したの。
で、KGBの特別な部門が彼らを長期間勾留して取り調べしたんだけど、何も違法なものや反政府的な書き込みとかが見つからなかったのね。
それでKGBがキレて、もし釈放して欲しかったら違法なことをやってるおまえらの仲間を密告しろって脅して来たの。
だけど彼らは筋の通ったアナーキストだから、そういう取引には応じないで、「実際に何もやってないし、違法なことやってる友達とかも実際にいない」って言い通したの。
結局、釈放されてからも彼らはずっと尾行されてたんだけど、今年の夏にポーランドに移住したわ。
E:パンクコンサートに警察が来たりもするの?
A:当然よ。しょっちゅう来るわ。
時には発砲もするし、コンサートに来ている人は取り押さえられて車で警察署に連行されるわ。
そこにいれば外国人でも関係なく逮捕される。
だからパンクコンサートの情報は表には一切出ることはなくてパンクコミュニティ内だけで情報がシェアされてるのよ。
E:それで2020年の選挙の後に、パンクとかテクノ界隈の人の多くがベラルーシを出たって言ってたけど、主にどの国に移住したの?
A:主にウクライナやポーランドね、一番近いし。
私の友達の7割くらいが逃げたわ。
7割は多すぎよ。
逃げた人の多くは一時的にベラルーシを離れているだけで、また戻ってくるつもりだとは思うけど。
あ、ジョージア(グルジア)に逃げた人も結構いると思う、だってジョージアなら言葉もそこまで困らないし。
E:ベラルーシではどうやってレイブしてるの?
A:レイブは特に夏の間はよくあるわよ。
でも、パンクコンサートと同じで、せいぜい300人くらいの小さなコミュニティの中だけで情報がシェアされてて、参加者は多くても100人くらいね。
E:どういうところでやってるの?
A:湖のそばとか森の中とかね。
夏の間はずっとレイブがあって、本当に美しい湖や森の中でテントとかハンモック持っていって過ごすの。
それなしだと、私、ちょっと生きていけないわ。
もちろんそういうイベントは全てシークレットよ。
(続く)
ベラルーシでの実際の生活がどのようなものかよく分かる本。
2015年ノーベル文学賞受賞作。