短編『何も気にならなくなる薬』その271
基本的にチャンスは一度きりなのだが、
どうにもそのチャンスを逃してしまう。
ダラダラダラダラと楽な方へ。
失敗するのが怖いからそうなってしまう。
しかし、挑戦しないと失敗をすることすらできない。
何も残らない。
「オリオン座」
「ピアノ線」
「密売」
「今週のラッキーアイテムは」
毎日飽きもせず星座占いは続く。
果たして誰が考えているのだろう。
日本に住む一億人以上の星座を12等分したとしても
800万人ずつの区切りだ。
それにラッキーアイテムを振り分ける。
「さそり座のあなたの運勢は残念12位。ラッキーアイテムはピアノ線」
どんな生活をしていれば普段の生活の中でピアノ線が出てくるのだろう。
そう思っていた矢先だ。
「私、ピアノの調律師を仕事にしてます」
合コン相手の男性がそう言葉を発してから、周りがそれについて関心を示す中、私はそれを運命のように感じていながら何もできずにその場にいるだけだった。
「あれからどうだった?」
「なーんにもない。なんか象牙の話をしてた男いたじゃん、あれ密売で捕まったらしいよ」
仲間でありライバルである彼女たちですら何の成果も上げられずに意気消沈をしていた。
こんな時に星座占いはもってこいだ。
なにせ全部星座のせいにできる。
あのときは最下位だったから仕方ない。
800万人がそうして自分の不幸を受け止めている。
そんななか、急にスマホに連絡が入る。
「お久しぶりです。この間は有難うございました。私の知り合いがリサイタルをするのですが、もしよろしければご一緒にいかがでしょうか?」
送付されたチラシには「オリオンとさそりの物語」と題してあった。
ある意味で星座のおかげかも知れない。
私はなんて都合がいいのだろう。
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