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小説「シャセイ」

自分の中に溜まったあれこれを吐き出した開放感とともに目が覚める。
意識が飛んでいたのだろうか。
それもそのはずだ、エアコン代をケチって自粛行為に走ったのだから。
軽い目眩を覚えながら水道水を喉に流し込む。
出来るなら炭酸水がいい。
そんな些細なことも叶わないために、こうして鬱憤を晴らしている。
そんな堂々巡りの生活。

それを支えているのが正社員採用待ちのアルバイトの収入なのだから尚の事だ。

「作品に対してお金を払わないのは失礼だ」

友人との何気ない会話が、余計に私の心を孤独にさせる。
時間を確認するためにスマホを開くと喘ぎ声が流れてくる。

さっきまで観ていたAVのサンプルではなかった。
これは確か昨日見たものだ。
そして通知が流れる。
「今日の店ここだからよろしく」
というメッセージとともにURL。
「いや、昨日集まっただろう」
「おい、徹、何いってんだ? 集まるの今日だろう」
日付を確認する。7/14。なんの間違いもなかった。
だとしたら、あの日の晩の出来事はすべて夢だったのだろうか。

同窓会があって、他人と自分の現状の違いに惨めな思いをした。そしてなにより、あの頃憧れだった人が幸せそうにしているのをみて、惨めになって帰ってきて、自分の体を慰めて眠りにつく。そんな具体的な夢があるだろうか。

だとしたら今日のバイトはない。乾いている洗濯物は夢で見た服装と同じだ。服を選んで着ていく余裕はない。

できる限り最低限に身だしなみを整えていく、
「痛っ」
カミソリ負けをした。普段はないのにデジャブする。
もしかしたらあれは予知夢なのだろうか。
絆創膏もちょうど品切れ、一番近くのコンビニにも品切れで売っていない。
マスクの中にティッシュを入れてごまかして薬局に足を運ぶ、このせいで電車に乗り遅れ、集合時間に遅れるのだ。

そして、お店に入る。
「おう、待ってたぞ、おそいじゃねぇか。ほら、席用意しといたから、ここ座れよ」
ぐるりと眺めてみても空いているのは確かに彼女の隣の席だった。

学生時代憧れのヒロイン、高橋夏織。
高嶺の花とまではいかないが、結局踏み込めなかったあの頃のもどかしさが蘇ってくる。
それを知っている田中知哉がいたずらな顔をして手招きをしている。

「遠藤くんひさしぶり」
相変わらず綺麗だった。むしろあの頃よりも大人びて美しかった。他の身奇麗な同級生たちですら羨むほどで、隣に座れたことだけで今までの細やかな不幸などどうでもいいといえるくらい幸せだといえる。
でも、そうした細やかな幸福から突き落とされる。
「で、夏織の結婚式の予定はまだなの?」
「えっ?」
「あっ、まだ知らない人もいたっけ?ごめん言っちゃった」
周囲からの驚きの声とともに視線が彼女に集まる。

「まぁ、そんな落ち込むなよ」
あの夢の中ですでに知っているのだからそこまで落ち込んでいないつもりでいたが、何度聞いても落ち込む出来事だった。やっぱり好きな人が結婚するのは辛い。
視線の集まる彼女の隣にいたのだから、それだけ自分の顔も見られていたかもしれない。

「まぁ、久しぶりに集まったんだし、男だけで飲もうぜ」
同窓会はそれからいくつかのグループに別れて各々の会場へと足を運んでいった。

「ほら、家ついたぞ、じゃあな」
お酒の力では鬱々とした感情は拭いきれず、スマホに手を伸ばす。
列挙されているサンプルから好みのものを適当に選ぶ。
いつもはこれで解決する。
ただこの日に限ってはネタ選びに失敗したのか抜けなかった。
新婚人妻NTRもの。
憧れの人の結婚を知った矢先にそんなものを見るなんてどうかしているのかもしれない。
でも、理由は違う気がした。もうすでにその動画で抜いた気がするのだ。
一度抜いた動画では抜けない。
自分でも不思議なのだが、すでに見たものでは興奮しきれない。そんな特殊な性癖を持っているために、特定のDVDを買ったりすることはできないのだ。
初めて観たはずなのに抜けないのだとしたら、それは観たことがあることになる。
何を分けのわからないことを考えているのだろう。
そうしているうちに自然と眠りに落ちてしまった。
---

「昨日同窓会だったのか、じゃあ仕方ないな。次から気をつけろよ」
その日は珍しく遅刻をした。バイト先の先輩に怒られつつも遅れを取り戻すべく手を動かしていく、
「でも、確かにショックだよな。クラスのマドンナが結婚ってのは、どうだ俺の奢りで今晩駆り出すか」
「いいんですか」
「当たり前だ。で、人妻系がいいか?」
「なんでそんな意地悪するんですか」
「まぁ、いいじゃねぇか」

と言われて来たのが人妻ポパイポピー。

[値段は手頃なのは勿論だが、当たりが多い。
逆に外れが多いのは言うまでもない。takemi]

あべこべなレビューに不安を抱きつつも、先輩のお金なので、文句も言わずあとをついていく。

「どの娘にする」
「アケミ、もしくはカナですかね」
「じゃあ、お前はアケミにしな、おれがカナにするから」
本当はカナが良かったが、手銭ではないので素直に受け入れる。
それが失敗だった。
でも、腕と知識は豊富だった。ありとあらゆる方法で搾り取ろうとするのにはプロの根性を感じた。
レビューを書く機会があれば、高評価とは言わずともまぁよかったくらいにはすると思う。
考えを巡らせているうちに後悔と脱力感でうっすらと眠りに入ってしまうのに気がつく。ここで寝るわけにはいかない。そうした感情とは裏腹に、深く深く意識は沈んでいく。
----

「やばい遅刻だ」
過去に鳴っていたアラームの履歴が遅刻している事実を強く主張している。
「先輩すみません、今日遅れます」
「場は繋げといてやるから、気をつけてこいよ」
「すみません、有難うございます」
ひどい夢を見た。風俗でハズレを引く夢なんて見たくたって見られない。もちろん見たくもない。

「昨日同窓会だったのか、じゃあ仕方ないな。次から気をつけろよ。でも、確かにショックだよな。クラスのマドンナが結婚ってのは、どうだ俺の奢りで今晩駆り出すか」
「いいんですか」
「当たり前だ。で、人妻系がいいか?」
「なんでそんな意地悪するんですか」
「まぁ、いいじゃねぇか」

と言われて来たのが人妻ポパイポピー。

[値段は手頃なのは勿論だが、当たりが多い。
逆に外れが多いのは言うまでもない。takemi]

あべこべなレビューに不安を抱きつつも、先輩のお金なので、文句も言わずあとをついていく。

「どの娘にする」
「アケミ、もしくはカナですかね」
「じゃあ、お前はアケミにしな、おれがカナにするから」
なんとなく良くない気がした。名前の響きというか、加工された写真のこう、なんというか光沢の具合が良くない気がした。
「そこは傷心中なんですから譲ってくださいよ」
「また来たときにしなよ」
アケミは良くない。そう思いながらも先輩が決めてしまった以上、手銭じゃないので諦めることにした。
それが失敗だった。
何をされても性的に興奮できず、挙句の果てには機嫌を損ねさせてしまった。
「どうした、外れだったか?」
「いや、そんなことはないです」
「傷口に塩だったか。まぁ、飲みに行こう」

それから深く酔ってアパートに入り込むなり寝入ってしまった。

翌朝は二日酔いの頭痛と歯を磨かなかったことで、不快感で満ち溢れていた。
今日もバイトだ。
気だるさを覚えながらも歯を磨こうと考える。
その前に中途半端な扱いをされた息子が不満でご立腹だった。
まだ時間があることを確認して、スマホを手に取る。
なにか丁度いいネタはないかと元アイドルだという女優の作品を見る。
確か前にも違う名前で見たことはあるが、コンセプトが違う。あのときは清楚で受け身の設定だったが、今では清楚なのはそのままで、実はビッチな医者という設定になっている。
この際若ければなんでもいい。


「今日はどうしますか」
「その実はショックな出来事があって」
「それで来たんですか」
「はい」
「べつに悪く思わなくていいですよ。体だけじゃなくてこうして心も癒やすことができたら、この仕事にも意味があるって思えますから」
アケミさんの胸に抱かれた私はこの人になら話してもいいと思えていた。

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