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短編『何も気にならなくなる薬』その111

本日もお付き合い頂きまして有難うございます。

さて、冬本番とでも言うんでしょうか、かなり寒くなってきました。
急な寒さで慌ただしく衣替えをした人も多くいるかと思います。
かくいう私も家の中で一番暖のとれるジャケットをついに取り出しましたが、暖かすぎるのか、汗をかいて逆に寒いという、過ぎたるは及ばざるが如しとでも言うんでしょうか、そんな感じです。

さて、今回のお題はこんな感じ。
「脳内汚染」「仮想世界」
「チラシの裏」
「へのへのもへじ」
「キャンパス」


素敵なキャンパスライフ。誰もが夢見るものかもしれないが、現実はそんなことはない。
それは行きの電車の中で十分にわかるだろう。
大人たちは揃いも揃って頭を垂れてスマホを眺めている。
まともに正面を向いているのはスマホの中の実況者くらいなものだろう。
誰かがこれを脳内汚染だとニュース番組で取り上げていたが、すぐに見かけなくなった。
おそらくは洗脳の類だ。現実味がないと思うかもしれないが、本当に恐ろしいものはその存在すら明確にならない。
私達は徐々に仮想世界の中に引き込まれ、現実の中に生きることができなくなってしまうのではないだろうか。

「あれ、見たか」
「日本のバンクシーだっけ」
「そう、へのへのもへじ」
「でも、子供のイタズラだろう」
「いや、この間、ミスコンのチラシの裏にもへのへのもへじがいたんだよ」
「手の込んだイタズラだな」
「犯人はこのキャンパス内にいると思うんだ」
「でも、そんなのは厨二病のすることだろう」
「もしくは美術科の誰かがバンクシーに憧れたのかもな」
「だとしたらもっと芸術的で社会風刺の効いたものを描くと思うけどな、ほら、用務員のおじさんが壁のへのへのもへじを消してる」
「大変だな、あんな風に仕事が増えちゃって」
「そこで何だけどさ、俺達でそのへのへのもへじの犯人を見つけないか」
「俺達で?」
「なんだか面白そうじゃん、探偵みたいで」
「まぁ、次まで三コマ空いてるしいいよ」
「よし、じゃあ、早速おじさんに聞いてみるか」
「おじさん、ちょっと話を聞きたいんだけれども」
「なんです」
「いやね、このへのへのもへじ、一体誰が描いてるかと思って今探してるんですよ。で、今までどんなところに描いてあったか聞きたいんです
が」
「あぁ、そういうことか、それなら、これで協力してくれないかね」
「なんです」
「スプレーだよ。私一人じゃ消しきれないからね、手伝ってもらいたんだが」
「今までは何処だったかわかります?」
「比較的目のつくところが多かったよ。立入禁止のところにはなかったし、目立たないような所にはなかった。私の方で消しづらい場所ということはなかったよ」
「そうですか、有難うございます」
「じゃあ、スプレー頼んだよ」
「なんだか面倒なこと頼まれちゃったな」
「まあまあ、見つかったらの話だから」
「しかし、あの口ぶりだと何箇所もあるみたいだけれど」
「多分スプレーを塗ったところは目立つからそれを見つけたら傾向がわかるかもしれない」
「なるほどね、あっ、あそこ、食堂横の喫煙所」
「確かにスプレーの跡がある」
「いままで気付かなかったな」
「まぁ、タバコ吸ってスマホ触ってるしな」
「おい、あそこ、校門の裏側」
「本当だ、帰るときに気が付きそうなものだが」
「帰るときは疲れてるから気にも止めないかもな」
「こうやって探してみると案外簡単に見つかるな。どうして今まで気が付かなかったのだろう」
「あ、あそこにへのへのもへじ」
「あんなにたくさん生徒が通っているのに、誰も気がつかない」
「みんなスマホに夢中なんだよ」
「おい、足元にもあるぞ」
「隠れミツキーかよ」
……
「おい、あそこにいる二人組、見てみろよ」
「何かあった」
「二人揃って背中にへのへのもへじが描いてあるぞ」


美味しいご飯を食べます。