短編『何も気にならなくなる薬』その94
量産型
二十年後
地図
「ねえ、智子、今日のメンツどうなの」
「正直前回より良くないらしいわよ。なんか量産型みたいな男ばっかり」
「えー、そうなの?ドタキャンしようかしら」
「まぁまぁ、参加するだけで男が呑み代を持ってくれるから、いいじゃない」
「しかし、あくどい商売よね、合コンセッティングしてあげるかわりにお金を集めて儲けようだなんて」
「まぁ、経済学部だからそのへんは上手いみたいね」
「できればそんな経済学部のイケメンと付き合いたいものだけど」
「でも、でも経済学部の男はなんでも統計らしいわよ」
「どういうこと?」
「夜は計算ってこと」
「そろばんみたいに弾かれちゃうの?」
「何を言ってるのよ、要はネットで調べた内容でしか動けないってこと」
「なにそれつまらないじゃない」
「そうなのよ、頭がいいだけで男としては全然ダメ」
「やけに詳しいわね」
「疑うのはやめてよ、聞いた話なんだから」
「それで、会場はどこ?」
「ちょっとまってね、地図を見てるから、これがここでこうだから、こっちね」
「ほんとに大丈夫?明美は方向音痴だから」
「そういう由利子も智子だって地図読むの下手じゃない」
「わかったよ、あなたに任せるわ」
-
「はじめまして、田中さんに声かけてもらった伊藤です」
「同じく高橋です」
「熊井です。今日はお互いに不慣れだと思うけど宜しく」
「しかし、女子、遅くね?」
「な、おそいよな」
「もしかしてバックレ?」
「合コン設定してくれるのはありがたいけどさ、ひどい話だな。これでもし先に帰ってみろよ。実際には来てないくせに『なんで先に帰っちゃったの』とか言われるんだよ。で、田中のやつに集金されるんだ」
「やっぱり俺たちには合コンは無理だったんだよ」
「しかし、せっかくモテない三人で集まった訳だし、飲み友が見つかったってことで宜しくやろうぜ」
「それもそうだな、何も女が全てじゃないんだ」
「よし、呑もう呑もう」
-
「しかしアレから二十年後か」
「お互い仕事が忙しくなって全然会えなかったけど、まさか皆結婚してるとはな」
「そうだよなー。それはそうと、皆新婚生活の鮮度は落ちただろうから、嫁の愚痴でも肴にして呑もうぜ」
「いいね」
「惚気は禁止な」
「惚気なんかないだろ」
「じゃあオレから、たまに子ども連れて動物園とか行くんだが、嫁は全然地図読めなくて、すぐ迷子になるんだよ」
「まじか、それわかる。車運転してても全然頼りにならないんだよ。そのくせカーナビにケチつけて」
「まじか、俺のところなんか、ダイエットだってランニングしにいったら帰ってこなかったぞ。それで町内放送流されちゃって、こっちは恥ずかしいよ」
「昔から女は地図を読めないってのは本当なんだな。それはそうとウチの嫁、昔合コンは行くのに道で迷って行けなかったらしいぜ」
「何だよそりゃ、そんなことあるのかよって言いたいけど、こっちもそんな話聞いたことあるな」
「偶然が出来すぎちゃいねぇか?俺もそうだよ」
「それ何年前?」
「多分、二十年前くらいだな」
「それって、まさか」
「おい、田中の連絡先覚えてるか」
「おれまだあるぞ」
「よし、かけろかけろ」
「はい、田中です」
「おい、覚えてるか、伊藤と高橋と熊井だよ」
「あ、あぁ、覚えてるよ。あのときは迷惑をかけたね」
「いいや、別に昔のことなんか謝るなよ。それはそうとあのとき合コンを組んでたはずの女子の名前覚えてるか」
「あー、ちょっとまって調べるよ。うん、明美、智子、由利子だね」
「明美、智子、由利子。うちは明美で、そっちが智子、そっちは由利子。ははっ、おかしなことがあったもんだな」
「何かあったの?」
「いや、二十年前に合コンする予定だった女子と今の奥さんがおんなじ名前なんだよ。もしかしたら同一人物かもな」
「それ、本当?うん、うん、うん、たしかにそうだよ。大学といい年齢といい同一人物」
「おいおい、本当かよ。何?今どこで飲んでるかって?〇〇駅の前だよ。何?ちょうど近くにいるからこっちに来る?
じゃあ、あのとき払うはずだった。合コンのセッティング代一万円、利子つけて一人頭、二十万徴収していいぞ。
これるものなら来てみろよ。えっ?なぜそんなに強気かって?
だってお前も地図読めないだろ」