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短編『何も気にならなくなる薬』その297

「彼が電磁石を用いて自作したコイルガンが、自然現象に影響を与えている」
「というと」
「知っているとは思うが、コイルガンとは電磁石に電流が流れることで発生する磁力を用いて、金属性弾丸を発射する銃のことだ。 今の法律では所持することも禁じられている」
「彼がそれを自作したと」
「若者の好奇心が偶然にも法を破ったに過ぎない。ましてや彼はそれを人に向けて撃つ考えもなかった。もとより彼はロケット研究の一環でその仕組みを活用したに過ぎない。ただそれを扱う角度が地上に対して垂直か水平かの違いだ」
「それが自然現象になんの影響が」
「雲が割れた」
「雲がですか」
「これは偶然という言葉で片付けるのは難しい。その結果、季節外れの台風が発生して結果的に彼は何人もの死者を出した」
「しかし、それはあまりにも話が飛躍しているのではありませんか」
「私たちにとってはそうかも知れない。だがもし私たちが、遺族だとしたら」
「許せない、ですね」
「彼が打ち出したのは宇宙への憧れではなく、一つの弾丸にほかならない」
……

自然現象がテレビのニュースで取り上げられている。
不透明なビニールカッパを着ているニュースキャスターが強風に煽られている。
「季節外れの台風は今後どのような動きを見せるのか、専門家の意見を仰ぎます」

誰があのアルパカのブロンズ像を作ったのだろうか、例の未確認飛行物体が直撃したとされるアルパカ像がニュースキャスターの後に映っている。

「CMのあとはTV初登場、熱々かまどアイスの紹介です」

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魚亭ペン太(そのうち公開)
美味しいご飯を食べます。