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短編『何も気にならなくなる薬』その87

チーズ

時間制限

育ち盛り


はいチーズ。
そういわれて写真を撮られた少年はつま先立ちをしていた。
自分の好きな女の子とのツーショット。
中学生女子と小学生男子の身長差はどことなく少年にコンプレックスを抱かせていた。

「いつになく食べるようになったな」
「なんでも時間制限があるらしいわよ」
「時間制限?」
「大人になったらそんなに変わらないでしょ、育ち盛りのうちにいっぱい食べて大きくなりたいんだって」
「何か目標でもあるのか」
「ほら、隣のカオリちゃん、この間一緒に写真撮ってたでしょ」
「なるほどな、それで気にしてるのか、男は身長じゃなくて心だろ」
「そんなこと言ったって今のあの子にはわからないわよ。今の男は3Kが大事らしいわよ」
「3K?部屋の広さか」
「そうじゃなくて、高学歴、高収入、高身長のこと」
「あぁ、新聞に載ってたな」
「なんの新聞?」
「産経新聞」
「けっこう勇敢なボケね」
「産経に夕刊はないけどな」
……

「ねぇ、久しぶりに二人で写真撮らない?」
「いいよ」
「ちょっと屈んで……はいチーズ」
「昔のこと思い出すなぁ、同じ高さで写真に映りたくて背伸びしてたけど、今じゃこっちが屈む側なんだから」

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魚亭ペン太(そのうち公開)
美味しいご飯を食べます。