短編『何も気にならなくなる薬』その132
芸能人がスキャンダルで矢面に立つ。
いつの時代も繰り返してきたことだが、人というのは誰かを悪者にしないとやっていけない生き物なのだと思う。
その証拠に歴史上の人物は壮絶な死を迎える人が多い。
そしてまた、それを語り継ぐ人がいるのだから尚の事だ。
どこまでいっても人は人の話が好きなのだ。
「事務」
「甲高い」
「隔絶」
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「事務作業、それは裏方だ。裏方は必ず必要な仕事だ」
そう言ってグラスを傾けた先輩は翌日に高跳びをした。
なにかの冗談かと思った。あれからもう一軒行くと言って呑みすぎたのだろう。そう考えていた。
けれども形ばかりの退社時間を迎えても先輩は帰ってこなかった。
書類の山によって世間と隔絶されたデスクが二つ。
私のものと先輩のものだ。
目に見えるだけならまだマシだ。
データで送られてくるモノを可視化したのであれば、一体どんなことになるのだろうか、それを考えるだけで恐ろしくなる。
「早く終わらせてよね」
甲高い声が職場に響き渡る。
「あの、人員の補填は」
「できると思う?」
私はうなだれた。いや、厳密にはうなだれたふりをした。
仕草なんてものは所詮は意思表示の一部だ。
私が落胆している姿を見て楽しんでいるに違いない。
「大丈夫だ手は打ってある」
あの飲みの席で先輩が言っていた意味を知るのは、あの甲高い声が聞こえなくなってからだった。
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