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もう一度遊びたい

「じゃ、あとで健人の家に集合な」

「わかった」

「お菓子忘れるなよ」

「はいよー」

学校終わり、それぞれが家の方向に向かい始める交差点。30分後の約束を交わして、自転車を漕ぐ。

サンテンドー75が家庭用ゲーム機で初めて四人対戦が実現させた。それまでは一人で遊ぶRPGが多く、二人で遊べるソフトもごくわずか。

コントローラーの取り合いが当たり前だったらしい。

それが四人まで遊べるようになるなんていうのは、画期的なんだとか。

各家庭で一個までしか買って貰えないコントローラーを二つ持っている健人の家に、えんどぅーとなべちんが一個ずつ持ち込むことで四人対戦が実現した。

だから私はそのおこぼれをもらう形で参加していた。

「あっ、ミツキーおそいぞ、先にやってるよ」

先に集まってた三人がカチャカチャとコントローラーを操作しながら、あーだーこーだいいながらやられた~とか仕返しだ!とかいって盛り上がる。

「はい、ミツキのコントローラー」

手渡されたオレンジ色のコントローラー。オレンジが好きだからなんて理由で必ずこのコントローラーになる。

「じゃあ、いつもどおりミツキとチームを組むのは俺な」

正直、私は家にそのゲーム機がないので一番下手。ハンデ代わりに参加することになる。一番強い健人と組むことが多く、そのハンデがあっても勝ててしまうことがあるのだから、本当に上手なんだと思う。

「またあんたたち集まってんの。よく飽きないね」

「あ、お姉さんこんにちは」

テレビがあるのはリビングだけなので、健人のお姉さんと会うことが当たり前のようになっている。

「ミツキちゃんも無理に男子の相手しなくていいんだからね」

「でも、私は……」

小鳥の鳴き声が聞こえ始めた。もう高校生の朝だった。小学生の頃の放課後はとっくのとうに過ぎ去っているはずなのに、時々この夢を見る。多感な時期の記憶は鮮明に残るなんていうけれど、たぶん私はその頃に戻りたいのだと思う。

私が男子の輪の中に入って遊ぶ時期は早い段階で終わっていた。健人のお姉さんが心配してくれたからなのか、いろんな学年の女子が集まっているグループに誘ってくれたのだ。

それから会うたびに挨拶はするけれど、向こうから遊びに誘ってくることはなかった。もちろん女子グループで遊ぶほうが楽しかった。でも、当たり前のように誘われていた毎日が急に訪れなくなるのは子供ながらに寂しかった。

「よう、ミツキ」

「あ、おはよう」

「なんか元気ないな」

「別にそんなことないよ」

「変な夢見たとか」

「まぁ、半分正解」

「どっちの半分だ」

「夢が正解」

「ふーん、それで、どんな夢だよ」

「小学生の頃さ一緒に遊んでたじゃん。あれ」

「あー、なべちんとえんどぅーと一緒にか」

「そう、それ」

「懐かしい話だな」

「ね、あれから二人とは会ってるの」

「いや、学校変わってからは全然」

「そういうもの?」

「まぁ、そんなもんだろ」

「また遊びたいとか思わない?」

「どうだろ、昔みたいに遊べるかな」

「別にゲームじゃなくてもいいわけでしょ」

「まぁ、そうだけど、今になって何を話すかな」

「なんだっていいと思うけど」

「同じ学校ならこうして顔合わせたときは声かけられるけどさ、一度離れちゃうと声掛けづらくないか」

「なんだか意外」

「あのときはみんなで楽しめる一つのものがあったからよかったけど、あのときのミツキはさ……」

結局言い兼ねてそれ以上は言わなかった。

「そういえば、この前話してた相手、どうなった」

「あれはね、断ったよ」

「そんなんだ。でもなんだかもったいないよな」

「そう?例えばさ、欲しくもないもの貰ったら嫌じゃない?」

「たしかに」

「貰えるのは嬉しいけどね」

「こっちはそんな話ないからな」

「ここだけの話、健人の印象いいから、その気になれば三人や四人はできるんじゃない」

「そんなにたくさんはいらないかな」

「贅沢な話だね」

「逆にそんなにいるか?」

「いや、いらないかな」

「だろ?」

学校の校門を過ぎて、下駄箱に向かう。

今日もまたチャンスを逃した。

彼は別の友達と教室へ向かっていく。

あの頃みたいに、簡単に誘えるような、そんな何かがあればいいのに。彼の後ろ姿を眺めている私に友達の声がかかる。

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魚亭ペン太(そのうち公開)
美味しいご飯を食べます。