ゼロダークサーティから10年
約20年続いたイラク戦争が8月31日をもって(おそらく)終わった。
20年前、恐らくケネディ大統領暗殺事件に匹敵するほどの目撃者を生み出したアメリカ同時多発テロ事件を発端とする戦争。
学生時代、あの事件はまるで映画のワンシーンであるかのように見えた。
動画3:00あたりを見ればわかるとおり、生中継中に2機目が突っ込む。
2001年当時というのはオカルトブーム(ノストラダムスの大予言等)が少し前にあったこともあいまって根拠不明の陰謀論が良く出回ったが、逆を言えばそれぐらいアメリカのみならず世界規模で衝撃的な事件だったということの表れでもある。
2011年。
東日本大震災という大混乱の中、アメリカは(トモダチ作戦をしながら)イラク戦争の節目となる出来事を成し遂げた。
日本では2013年に公開された「ゼロ・ダーク・サーティ」という映画。
この映画の題材となっているのが、2011年に敢行されたビンラディン暗殺作戦だ。
このトレイラーにもあるように、アメリカはビンラディンがアメリカ同時多発テロを計画したと睨み、10年の歳月を経て実行し、成功したのが2011年。
この映画は当初の物語ではビンラディン暗殺成功までを描くものではなかったらしく、製作中に暗殺が実行されたため、急遽作戦成功までの流れを描いたらしい。
(そもそも2年でここまでの映画を作れるとは思えない)
こう文字にしてみるとなんとなく思うのが、プロパガンダ映画ではないのか?という疑問。
実際にこの映画を見た多くの人が「アメリカの宣伝映画」とか「人殺しを褒め称える映画」などなど散々言われているわけだが、実際見てみるとエンタメとしての娯楽性がほとんど皆無なドキュメンタリー調の作風というプロパガンダとしては赤点レベルで楽しい映画ではない。
決定的なのは終盤の暗殺実行の際、
ビンラディンと思われる人物の家族、および側近らしき人物の家族もろともアメリカの特殊部隊DEVGRUが子供の前で殺す。
勿論子供を手に掛けるようなことはしてないが、数分前に親を殺したアメリカ人が笑顔で子供に「怖くないよ。怖くないよ」と言い聞かせるシーンを見て、何処にプロパガンダ的要素があろうか。
だからといって全てが忠実かというと少し疑問ではある部分もあるが、
そもそもこの作品自体がイラク戦争に参加した軍人の書籍や証言をもとに構成されたものでもあるため、当事者たちのフィルターがかかってる点は否めない。
しかしそれでも、この映画は何色にも染まっていないが故に一寸先が闇しかない絶望感を醸し出しているのは確かだ。
象徴的なのは主人公のマヤというCIA職員。
彼女自身、映画中盤までは出来る人物として描かれているだけだが、仲間の死をきっかけにして言動および行動が過激化を辿る。あるシーンでは戦闘のプロである軍人からも引かれるほどに。
身内の死をきっかけにして、人間が持っている理性を半ば失わせるほどの狂気的かつ熱狂的にターゲット(ビンラディン)を探し求める姿は、何を隠そうアメリカ国民そのもの。
2011年の暗殺成功の報せがアメリカ全土に広まった時、国民は歓喜し、
一方で人殺しという部分について歓喜することに疑問を抱いた人物は叩かれた。
この点については当事者でなければ理解できない。アメリカ同時多発テロの直接的な被害者であるわけでもない日本人からしてみれば異常に見えるのは仕方ないことと言える。
主人公のマヤは、ある種アメリカ同時多発テロに心を痛め、復讐に燃えるアメリカ国民そのものを表していると言ってもいい。
映画の終盤、
作戦が成功した後のマヤ描写は多くの人が予想していたようなものではなかった。
この映画のキャストインタビュー、ならびに製作陣は、口々に「この偉大なる作戦を描く映画に参加できてうれしいです」と語っているが、映画のエンディングはそれとはまるで違う印象を受ける。
10年前に公開されたこの映画の最後の台詞は、マヤ自身からではなく、
帰路に立つマヤにパイロットが投げかけた台詞だった。
Where do you want to go? (どこへ行くんだ?)
アメリカ国民、そして戦争という状況を生み出し今日まで続けてきたアメリカという大国の意志を象徴するマヤに投げかけられたこの台詞。
アメリカはこれからどこへ?