映画『ラストマイル』感想 (ネタバレ注意)
映画『ラストマイル』を見てきた。ネタバレ込みで感想を書く。ネタバレが嫌な人はブラウザバック推奨だ。
仕事はつらい。世界は止まってはくれないから。
荷物に爆弾が入っているかもしれないと分かっても荷物を運び続ける。注文を取り続ける。人がベルトコンベアの上に飛び降りても、すぐにまたラインは動き出す。物流は止まらない。人々が便利で快適な生活を欲するから。一昔前なら、ちゃんと物が届くだけで奇跡だった。今では奇跡でもなんでもない。ごくありふれた日常。物流は止められない。日常が崩れてしまうから。私たちは変わらぬ日常を過ごすために、どれだけの犠牲を払っているのだろう。
あらゆるサービスは、いまや冷血で巨大な怪物に成り果てている。洗練されたオペレーションマニュアルに、モダンなデザイン、無駄を切り捨てるITシステム。それらが揃ったサービスは、そこに人が介在していないかのような見た目をしている。本作を見て誰もが想起する巨大通販サイトのA社はまさにそんな冷たい血の怪物といえよう。しかし、怪物は獅子舞にすぎない。その中には人がいる。人が汗を流して、血反吐を吐きながら必死に怪物を演じている。あまりに洗練された演技のせいで、いつしかユーザーは中に人がいることを忘れる。本物の怪物だと思い込む。思い込んだ結果生まれたのが、今日のわがままで横柄な消費者なのかもしれない。
理屈と膏薬はどこにでもつく。
どんなに非情な行いも、全ては「Customer Centric」というマジックワードで正当化される。いかなる結論も、すべて「Customer Centric」でアドホックに説明可能だ。運送業者を安い報酬でこきつかうのも、爆弾があると分かりながら配送をやめないのも、全ては「お客様のため」で説明できる。配送料が安いとお客様が喜ぶから。配送をやめるとお客様が困るから。過度に抽象化された組織のビジョンは、その抽象性ゆえにナンセンスなものになってしまう。解釈次第でどんな結論も得られるからだ。そんなビジョンに何の意味があるだろう。
僕の観測範囲では、会社のパーパスを気にして就活をする意識の高い学生が、意外と多い。僕はこれにかなり懐疑的な立場だ。パーパスやビジョンで何がわかるのだろう。だいたいどの会社も、言い方が微妙に違うだけで「Customer Centric」をパーパスに掲げている。人からお金をもらうためには、人が求めているものを提供するのが基本だ。したがって、営利企業が合法的にお金を稼ぐためには、お客様中心主義にならざるを得ない。それを各々の会社が、各々の言葉で表現しているに過ぎず、そこにたいした違いはない。
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