
荒木経惟 個展 『退院』
原宿のアートスペースAMで開催されている荒木経惟の展示『退院』を見に行った。今年、荒木は右手の手術の影響で入院を余儀なくされていた。『SWITCH』2024年6月号にて、「もういいよ。俺、治ると思ってないもん。カメラを持てないんだよ。上がんないんだよ」と語っていた荒木だったが、今回の展示では車椅子に乗りながらもPENTAX 67で撮影している荒木の写真があった。他には空の写真と少ないながら花の写真もある。もちろんポラロイドも。
空の写真では、雲が写っておらず晴天のカラー写真が占めていた。荒木のカラー写真で晴天はめったにない。ほとんどの場合、雲が一緒に写っているか、モノクロである。今回は葉が生い茂る木々と共に撮っている。
彼岸が見えているけれど、まだ此岸で為すべきことがあるという決意を感じる。モノクロではなくカラーで表現しているということはそういうことなのだろう。かつて荒木は「風景は死で、景色は気持ちの色彩・色」とインタビューで述べていた。今の荒木の写真は、生と死が互いに溶け合い、カラーの気持ちとモノクロの気持ちが見事に表現されている。生と死の循環と虚実皮膜を行ったり来たりする写真を表現してきた荒木だが、ここにきてまた新たな領域に到達した。相変わらず恐ろしい男である。
荒木経惟のファンなら必見の展示だし、ファンでなくても写真と生死を共にする覚悟を持っている人にもぜひ見てほしい展示である。『退院』は今年の10月3日まで開催中。
