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Leica "M" book
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先日、ライカMシステム誕生70周年を記念して発行された『Leica "M" book』を手に入れた。予約したのは2ヶ月ほど前で、すっかり忘れていた頃に入荷の連絡が入った。もう日本では手に入らないと思っていたので驚いた。オンラインストアを見ると常に品切れで、予約もできなくなっている。それだけ人気なのか、もともと発行部数が少ないのかは分からないけれど、手に入れられたのはかなり運が良かったと思う。
『Leica "M" book』には巨匠たちの写真が55枚掲載されており、その他の多くはMシステムに関するエッセイやアーカイブで構成されている。全編英語で書かれているため、まだすべては読めていないけれど、十分楽しめている。ライカが好きな人はもちろん、ライカを知らない人でも楽しめる内容になっていると思う。本の装丁は高級感があり、所有欲を満たしてくれる。
さて、僕が『Leica "M" book』を購入した理由は、巨匠たちの名作を見たいからだった。写真の印刷の質は非常に高く、見開きで掲載されているため迫力も満点だ。ただ、名作揃いのために自信を失うというアクシデントに見舞われてしまった。ライカMシステム70周年を飾るにふさわしい写真が揃っているのだから、クオリティの高さは言うまでもない。
掲載されている写真の多くがストリートフォトであることも素晴らしい。ライカはストリートフォトグラファーを大切にしている。70周年記念ならば、もっと華やかで豪華な演出が施された写真が掲載されてもよいはずだけれど、ライカには慎ましさがあり、単なる高級ブランドではないことが分かる。ライカは決して権威に胡座をかくことのない、実直なカメラメーカーなのだ。
55枚の名作写真の中で、日本人の写真家が二人紹介されている。そのお二人はシン・ノグチさんと市田小百合さんだ。シン・ノグチさんは僕が大好きな写真家で、『IN COLOR IN JAPAN SELECTED AND NEW WORKS』も持っている。彼は日本の文化をユーモアを交えて詩的に美しく表現する写真家であり、日本人だからこそ撮れる日本の写真を世界に発信している巨匠だ。世界が求める日本を撮る日本人の写真家とは、シン・ノグチさんのように、日本のことを十全に表現できる写真家なのだろう。
恥ずかしながら、市田小百合さんのことは『Leica "M" book』の写真を見て初めて知った。以前、「M is M」のウェブページに掲載されていたバレリーナの美しい写真を見て、誰が撮影したのかずっと気になっていたのだけれど、『Leica "M" book』で市田さんの写真を見て、あの写真は日本人が撮ったものだったのかと驚いた。その後、「M is M」のウェブページを改めて見てみると、ちゃんと市田さんの名前が掲載されており、自分の視野の狭さを恥じた。そして、市田さんのホームページに掲載されている写真を見て、完全に心を奪われた。市田さんは今後も追いかけていきたい写真家だ。
カメラに関することでは、M11の分解写真が特に印象的だった。M11は約800のパーツで構成されており、1台を組み立てるのに1165の工程を経て15時間15分かかるという。M11の小さなボディにこれだけのパーツが組み込まれているのは、まさに奇跡に近い。特に距離計の部分は、分解写真を見ても理解が追いつかないほど緻密な設計になっており、高価な理由がよく分かった。
意外だったのは、M11には防塵防滴性能が全くないと思っていたけれど、特別な設計によってホコリと水しぶきを防げるシーリングが施されているということ。過信はできないけれど、小雨や少しホコリっぽい場所なら問題なく使えそうだ。ただし、レンズには保護が一切施されていないと思うので、天候が悪い日には使わないほうが安全だろう。それでも、カメラは道具なので、ハードに使い込んでボロボロにしていくことが、カメラの良い使い方である。
とりあえずの感想はこんなところだ。僕はM11でライカを知った新参者なので、ライカの歴史を学ぶ良い機会になった。そして何よりも、写真をもっと撮りたくなった。素晴らしい写真には、写真欲を伝染させる力がある。
巨匠の写真を見ると、自分がいかに甘い考えで写真を撮っているかがよく分かる。そのたびに自信をボキボキに折られているけれど、少しずつ芯は強くなっているような気がする。『Leica "M" book』は、見かけたら迷わず購入してほしいおすすめの一冊だ。