古今集巻第十八 雑歌下 1000番
歌めしける時に、たつまつるとて、よみて奥に書きつけてたてまつりける
伊勢
山川の音にのみきくももしきを身をはやながら見るよしもがな
歌召しける時に、奉るとて、詠みて奥に書き付けて奉りける
伊勢
山川の音にのみ聞く百敷を身を早やながら見る由もがな
宮中から歌をご所望であった時に、奉ることにして、詠んで奥書きに書いて奉った歌
伊勢
山中の川は音だけが聞こえるように、噂でしか聞くことがない宮中を、未熟な我が身にはまだ早いけれど、見る方法があればなあ
「山川の」は「音」に掛かる枕詞。
「音」は、噂、宮中の様子を指します。
「百敷の」は「大宮」に掛かる枕詞で、転じて百敷だけで宮中を指します。もとの意味は「とても広い、広大な」だろうと思います。
「身を早やながら」は、「我が身をまだ宮中を見るには早いものだと思う」と言う意味ですが、伊勢は以前に宇多天皇やその后に仕えていますから、辻褄が合いません。定説では「我が身を若かった昔の状態にもどって」と言われています。ここでは字義の通り「我が身にはまだ早い」と解して、「未熟な私であり、奉る歌もそれ程でもないと謙遜」する意味と考え、また暗に「もう宮中へ戻ることもありませんよ」と断りを入れているのだと思います。
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