古今集巻第九 羇旅歌 410番
あづまの方へ、友とする人、ひとりふたりいざなひていきけり。三河国八橋といふ所にいたりけるに、その川のほとりに、かきつばたいとおもしろく咲けりけるを見て、木の陰におりゐて、かきつばたといふ五もじを、句のかしらにすゑて、たびの心をよまむとてよめる
在原業平朝臣
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ
東国へ友とする人をひとりふたり伴って行った。三河国の八橋という所に至って、そこの川のほとりにかきつばたがとてもきれいに咲いているのを見て、木の陰に降りて座って、かきつばたという五文字を句の始めに置いて旅の心を詠んでみては、というので詠んだ歌
在原業平朝臣
唐衣を着慣れたように馴染んだ妻が都にいるので、はるばる東国にまで来た旅を心もとなく思う
からごろも
きつつなれにし
つましあれば
はるばるきぬる
たびをしぞおもふ
と句の始めが「かきつはた」になっています。
業平は都で問題を起こしたので東国へ身を隠すために旅をします。その時の様子は伊勢物語に書かれていて、この歌の後は、「と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。」(と詠んだので、みんなはおにぎりの上に涙を落してしまい、べたべたになった。)となっています。
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