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古今集巻第十五 恋歌五 791番
物おもひけるころ、ものへまかりけるみちに、野火のもえけるを見てよめる
伊勢
冬がれの野べとわが身を思ひせばもえても春をまたましものを
恋の思いで悩んでいた頃、あるところへ出かける途中に、枯れ野の草を燃やしているのを見て詠んだ歌
伊勢
冬枯れした野辺だと我が身を思うのなら、恋に燃えてでも春を待つのだけれども
「物思ひける頃、物へ罷りける道に、野火の燃えけるを見て詠める
伊勢
冬枯れの野辺と我が身を思ひせば燃えても春を待たましものを」
「物を思ふ」とは、恋に悩むこと。
「物へ罷る」は、宮中を退出してどこかに出掛けること。
「道に」は、その途中で。
「野火」は、春に良い新芽が出るように枯野に火をかけること。
「◯と▢を思ひせば、△まし」は、◯であると▢を思うのであれば△なのに、という反実仮想です。
冬枯れの「かる」は「離る(かる)」との掛詞です。
冬枯れの野辺の草は野焼きして春を待てばまた芽吹くから、我が身が枯野であるなら火を着けて燃やせば春には良い恋ができるのだけれども、あの方との「離れ(かれ)」は、また芽吹くようなものではない。燃えても浮かれるような春はやって来ないのだろう、という歌です。
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