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古今集巻第十三 恋歌三 654番655番
橘清樹が、しのびにあひしれりける女のもとより、おこせたりける
よみ人しらず
思ふどちひとりひとりが恋ひしなばたれによそへて藤衣きむ
返し
たちばなのきよき
なきこふる涙に袖のそぼちなばぬぎかへがてらよるこそはきめ
橘清樹が人目を忍んで逢っていた女のもとから、送ってきた歌
詠み人知らず
思い合うものどうし一人一人が別々に恋死にをしたら、誰にことよせて藤の喪服を着ましょうか
返歌
橘清樹
泣いて恋しい涙で袖を濡らしたなら、脱ぎ替えるついでに夜こそは喪服を着ましょう
密かに逢っている相手なので、どちらかが恋しくて死んでしまったとき、何を理由にして喪服を着て相手を偲べば良いでしょうか、という女の歌に対して、涙で袖が濡れたから着替える夜に喪服を着て偲びますよと答えています。
男の返事としては、現実的でこの程度かもしれませんが、女としては少し冷めるかもしれません。
藤衣は、もともとは藤などのつるの繊維で作った粗末な衣服。これを喪服として使ったので、のちには喪服を藤衣と呼んだそうです。
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