古今集巻第十三 恋歌三 622、623番
622番
題しらず
なりひらの朝臣
秋の野にささわけしあさの袖よりもあはでこし夜ぞひぢまさりける
623番
題しらず
をののこまち
見るめなきわが身をうらとしらねばやかれなであまのあしたゆく来る
622番
題知らず
在原業平朝臣
秋の野の笹原を踏み分けて帰った朝の濡れた袖よりも、逢わないで帰って来た夜の方が袖がより濡れている
623番
題知らず
小野小町
逢う機会もそのつもりもない我が身を憂いに思わないのだろうか、離れずにあの人のは足を引きずってやって来る
「逢って朝に笹原を通るよりも、逢えないで帰った時の方が涙で袖がより濡れるものだ」、と業平が詠って、「見る目がないつまらない男だ」、と小町が返歌したように並んでいます。
秋の野の朝の笹原は一番露が降りていて、とても濡れやすいですが、それ以上に袖が涙で濡れているということに対して、わたしにはその気はないのに見る目ないですねときっぱり返される形です。
ただ実際に詠みあった訳ではなく、古今集の撰者がそのように並べてみたらしいです。業平が秋の野を詠っているのに、返しが海の男は良くないと言っていて、噛み合っていません。
「みるめ」は「見る目(逢う機会)」「海松布」、「うら」は「憂」と「浦」、「かれなで」は「離れなで」「枯れなで」、「あしたゆく」は「足たゆく」は足をふらふらとさせての意味。小町は掛詞をうまく使います。
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