古今集巻第十三 恋歌三 632番
ひんがしの五条わたりに、人をしりおきてまかりかよひけり。忍びなる所なりければ、門よりしもえいらで、垣のくづれよりかよひけるを、たびかさなりければ、あるじ聞きつけて、かのみちに夜ごとに人を伏せてまもらすれば、いきけれどえあはでのみ帰りて、よみてやりける
なりひらの朝臣
人しれぬわがかよひぢの関守はよひよひごとにうちもねななむ
都の東の五条あたりに、女と関わりを持って通っていた。正式ではなく忍んでいる家だったので、表の門から入ることができず、垣根の壊れ目から通っていたのが度重なったので、女の親が聞きつけて、通ってくる道に毎夜番をする者を伏せ隠れて守らした為に、行っただけで逢えずに帰ってきて、詠んで送った歌
在原業平
人が知らないわたしの通い路の関守は、毎夜毎夜さっさと早く眠ってほしいものだ
この話しは伊勢物語五段にあり、このあと女はひどく悲しんで心をいため、親はとうとう通うのを許します。この女はのちの二条の后(清和天皇の女御、藤原高子)だそうです。業平と高子の恋はこのあとも伊勢物語にあって、芥川へ連れて逃げたり、あきらめて(または罰として)業平が東国へ下り、高子は清和天皇の女御として入内します。
伊勢物語五段
むかし、をとこありけり。ひむがしの五条わたりに、いと忍びていきけり。みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、童べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり。人しげくもあらねど、たびかさなりければ、あるじききつけて、その通ひ路に、夜ごとに人をすゑてまもらせければ、いけどえ逢はで帰りけり。さてよめる。
人知れぬわが通ひ路の関守はよひよひごどにうちも寝ななむ
とよめりければ、いといたう心やみけり。あるじゆるしてけり。二条の后にしのびてまゐりけるを、世の聞えありければ、兄人たちのまもらせ給ひけるとぞ。
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