古今集巻第十九 雑躰短歌 1006番
七条の后うせ給ひにけるのちによみける
伊勢
沖つ波 荒れのみまさる
宮のうちは 年へて住みし
伊勢の海人も 舟流したる
心地して よらむ方なく
かなしきに 涙の色の
くれなゐは 我らがなかの
時雨にて 秋の紅葉と
人々は おのがちりぢり
別れなば たのむかげなく
なりはてて とまるものとは
花すすき 君なき庭に
群れ立ちて 空をまねかば
はつかりの なき渡りつつ
よそにこそ見め
七条の后がお隠れになった後で詠んだ歌
伊勢
沖の波がさらに荒れるような
宮中は、年を経て仕えて住んだ
伊勢の海人の私も、大切な舟を流してしまった
気持ちがして、すがるものもなく
悲しいものだ、涙の色の
紅の血は、我ら女房の中に降る
時雨であって、秋の紅葉のように
人々はちりぢりになり
別れたなら、あてになる人もなく
成り果てた、君がいない庭に
群れ立って空に向かって袖を振ったなら
初雁が鳴いて渡っていく
それを遠く眺める
七条の后(中宮)は、宇多天皇の女御の藤原温子(おんし、よしこ)、延喜七年(907)6月8日にお隠れになりました。
結句「よそにこそ見め」は、よくわかりません。「初雁が鳴いて渡っていく、后の魂が天に飛んでいく、それを遠く眺める」ことと、「群れ立って袖を振る女房達を后がどこか遠くから見ている」の両方かと思います。
角川文庫の注には、「宮中のこのような様子は退出すれば近く見ることはできない、よそながら見ることになる」という旨の説明がついています。
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