桜にはおそらく満ち足りた瞳が付き纏っている
桜にはおそらく満ち足りた瞳が付き纏っている
よそよそしいアゲハ蝶に季節の場所を譲るまで
見出された者たちへの悔いの残る伝言
あられもない生暖かい視野は
毟り取られた羽のかたちにくり抜かれる
たったひとつの風を送るために費やされる
生と噂話を繋ぐ鉄鎖の数々
樹幹が締め上げられ
水飛沫がささくれ立った割れ目から吹き出す
錆にピンクの花びらを
涙を
悲しみを
分け与えようとした翡翠のかけらは今まさに
地中深くの根に絡みつかれている
見えないことが緑からの抵抗を
燃え上がる桜の眼前に引き摺り出したわけではない
あのかつては優しかった火の姉妹
不在となった片割れの
尾を引く囁きの欠如が
密生する水柱の鏡面に反射の機能を送り続ける
仲睦まじく火と水の散りゆく様を描き出した
渇望の瞳
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